ローラ・インガルス・ワイルダー

ローラ・インガルス・ワイルダー：開拓時代の精神を伝える国民的作家

ローラ・エリザベス・インガルス・ワイルダー（1867年2月7日 - 1957年2月10日）は、アメリカの児童文学作家です。彼女は、西部開拓時代のアメリカで自身の家族と共に過ごした日々を基にした『大草原の小さな家』シリーズで広く知られています。この作品は、理想化されたパイオニアの生活を描き、アメリカの国民的作家としての地位を確立しました。

生涯

誕生と移住

ローラは、ウィスコンシン州ペピンで、父チャールズ・インガルスと母キャロラインの次女として生まれました。父チャールズは、1837年の恐慌の影響を受け、新たな生活を求めて西部へ移住した農家の息子でした。母キャロラインは、チャールズが移住してきた村で小学校教師をしていました。

ローラが生まれてからの数年間、インガルス一家は安定した生活を求めて中西部を転々としました。特にカンザス州の先住民居住区での生活は、先住民との衝突に巻き込まれるなど、不安定なものでした。

1871年、ローラが4歳の時にペピンの森林地帯に戻ると、生活は徐々に安定し始めます。1874年にはミネソタ州ウォルナット・グローブ近郊へ移住し、プラム・クリークのほとりに家を構え、姉妹たちは小学校や教会に通うなど、社会生活を送り始めました。この頃の経験が、後に『大草原の小さな家』シリーズの初期の物語の題材となりました。

デスメットでの定住

1862年に制定されたホームステッド法により、西部での開墾が奨励され、東部からの移住者が増加していました。1879年頃、父チャールズもこの制度を利用し、ダコタ準州（現在のサウスダコタ州）のデスメットに移住を決意します。翌年の冬は記録的な寒さとなり、その厳しさはローラの小説『長い冬』に克明に描かれています。

デスメットで、ローラは初めて正式な教育を受けることができました。聡明だったローラは、15歳で自らが学んだ小学校で教師として教壇に立つようになります。また、洋裁店などで副業を行い、家計を支えました。

結婚と苦難

18歳になったローラは、同じくホームステッド法を利用して農場を経営していた28歳のアルマンゾ・ワイルダーと出会い、結婚しました。当初、アルマンゾの農場経営は順調で、娘ローズが誕生し、夫婦は平穏な日々を送っていました。しかし、1888年にアルマンゾがジフテリアに感染し、重い後遺症が残るという不幸に見舞われます。さらに、息子が亡くなり、家が火災で焼失、干ばつによる農場の経営難と、次々と苦難が襲いかかりました。

執筆活動の開始

1894年、夫妻はミズーリ州マンスフィールドに新たな農場を購入し、移住しました。当初は丸太小屋で生活するなど苦しい日々でしたが、親族の支援もあり、徐々に生活は安定していきます。20年後には、所有地は200エーカーまで拡大し、酪農や養鶏なども行う大規模な農場へと発展しました。

ローラは、農園経営や家事に関する講演を依頼されるようになり、1911年からは地元紙『ミズーリ・ルーラリスト』に記事を寄稿し、連載コラムニストとして活躍しました。

『大草原の小さな家』シリーズ

1929年の大恐慌で再び経済的な苦境に立たされたローラは、農業紙への寄稿経験を生かし、小説執筆を決意します。1932年、『大きな森の小さな家』を出版し、これが大成功を収めます。その後、1943年までに8作の自伝的小説を発表し、アメリカ児童文学の古典としての地位を確立しました。

作品の評価と影響

ローラの作品は、貧困や自然の厳しさの中で家族が協力して生き抜く姿を描き、アメリカ国民の理想的な生き方を表現していると評価されました。また、工業化が進むアメリカ社会において、失われた開拓時代の理想へのノスタルジアを呼び起こし、多くの読者を魅了しました。

1974年から1984年まで放送されたテレビドラマ『大草原の小さな家』は、ローラの人気を世界中に広げ、作品は20か国語に翻訳されました。

論争と遺産

2000年代に入ると、ローラの作品における家父長制への肯定や先住民への差別的な描写が批判されるようになり、2018年にはアメリカ図書館協会が「ローラ・インガルス・ワイルダー賞」の名称を「児童文学遺産賞」に変更しました。しかし、ローラの作品は、当時の社会における差別や偏見を理解するための教材として、今なお重要な意味を持つとする意見もあります。

ローラ・インガルス・ワイルダーは、その作品を通じて、開拓時代の精神と家族の絆の大切さを伝え、世代を超えて読み継がれる国民的作家として、その名を歴史に刻んでいます。

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