ローラ・LC90

ローラ・LC90：1990年シーズンの軌跡

ローラ・LC90は、1990年のF1世界選手権を戦ったラルースチームのマシンです。前年モデルLC89の後継として、クリス・マーフィーとジェラール・ドゥカルージュによって設計されました。ドライバーには、日本人ドライバーの鈴木亜久里とフランス人ドライバーのエリック・ベルナールが起用されました。

開発：冷却システムと軽量化への挑戦

LC90の開発においては、ランボルギーニV12エンジンの発する熱量と冷却システムの改良が大きな課題でした。外観はLC89と大きく変わりませんでしたが、内部構造には多くの変更が加えられました。開発陣は、フロントウィング、エグゾーストシステムの見直し、燃料タンクの大型化、そして新設計のギアボックスの導入などを通して、マシンの軽量化を徹底的に追求しました。その結果、規定最低重量である500kgまで軽量化に成功しています。マシンは開幕に間に合わず、4月20日に行われたイモラ・サーキットでの合同テストで、エリック・ベルナールによってシェイクダウンされました。

1990年シーズン：予選突破からの躍進

LC90は第3戦サンマリノGPから投入されました。ラルースは前年、わずか1ポイントを獲得したため、シーズン前半は金曜朝の予備予選への参加が義務付けられていました。しかし、LC90は予備予選で圧倒的な速さを見せつけ、両ドライバーとも一度も予備予選落ちを経験しませんでした。前年、全戦予備予選落ちという苦い経験をした鈴木亜久里は、予備予選を突破した喜びを「去年は自分の腕がダメなんじゃないかと思うこともありました。でも今年、ちゃんとしたマシンに乗れたら予備予選を全部通過できて、自信が戻りました」と語っています。

ランボルギーニエンジンの開発も進み、予備予選通過はもはや問題ではなくなり、本予選でもトップ10圏内を争えるようになりました。鈴木亜久里はLC90について、「自分とエリックのマシンセッティングの好みがかなり似ていて、マシンをセットアップしていくときもやりやすかった。違うのはブレーキの味付けがちょっと違うくらい。それで出てくるタイムも2人がすごく近くて、作業が進めやすい好循環になった。LC90の元々の性能も良かったし、ランボルギーニのパワーもあってポテンシャルは高かった。問題は完走できる信頼性と、僕の予選のQタイヤの使い方がまだまだ未熟なことくらい」と高く評価していました。

サンマリノGPでは、トップチームに次ぐ位置でロータスと競り合うなど、高い戦闘力を示しました。モナコGPでベルナールが6位入賞を果たし、初ポイントを獲得。フランスGPでは亜久里7位、ベルナール8位とダブル入賞を果たしました。イギリスGPではベルナールが最終ラップでピケを抜き去り4位でゴール、亜久里も6位に入り、ダブル入賞を果たし、コンストラクターズランキング5位争いに加わるほどの好調ぶりでした。

課題：信頼性の不足

しかし、LC90はクラッチやトランスミッションのトラブルが多く、夏場にはランボルギーニエンジンもトラブルに見舞われるようになり、完走率は低迷しました。シャシーについても、カナダGPではセッティングに苦戦し、鈴木は「ここはシャシーが合わないんだと思う。何をやってもダメな感じ」とコメントしています。ドイツGPでは、ラジエーター、サスペンション、クラッチ、ギアボックスの故障、そしてエンジンブローまで発生し、トラブル続きの一戦となりました。

そして表彰台へ：日本GPでの快挙

ハンガリーGPでベルナールが6位、スペインGPで鈴木が6位とポイントを獲得するなど、LC90はテクニカルコースでも実力を発揮しました。そして、日本GPでは、9番グリッドからスタートした鈴木が、上位陣が脱落する中、見事3位でフィニッシュ。チーム初、そしてランボルギーニエンジン搭載車としては唯一の表彰台を獲得しました。このレースでは予選からセットが決まっており、鈴木は「朝のウォームアップで、フルタンクでも45秒を切って44秒台に入れるとは思ってなかった。ウチのクルマは本当に力がありますよ」と語っています。

シーズン終了後、ラルースは11ポイントを獲得し、コンストラクターズランキング6位となりました。しかし、ローラの車体を使用しながらコンストラクターを「ラルース」として登録していたことが問題視され、1991年3月にコンストラクターズポイントとランキングが剥奪されました。ドライバーズランキングはそのまま残されました。

スペック

燃料タンク：225L
ダンパー：ビルシュタイン
クラッチ：AP
ブレーキキャリパー：ブレンボ
ブレーキディスク・パッド：ブレンボ/カーボンインダストリー
ホイール：O・Z
エンジン重量：146kg
スパークプラグ：チャンピオン
* フューエルインジェクション：ボッシュ

ローラ・LC90は、潜在能力は高くとも、信頼性の問題に悩まされたマシンでした。しかし、日本GPでの3位入賞は、チームにとって大きな功績であり、その高いポテンシャルを示す象徴的な結果となりました。

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