ローラ・THL1

ローラ・THL1：1985年シーズンの挑戦と挫折

1985年のF1世界選手権。チーム・ハースは、ニール・オートレイとジョン・ボールドウィンが設計したローラ・THL1を投入しました。本車は、1980年世界チャンピオンであるアラン・ジョーンズをドライバーに迎え、ハート・415Tエンジンを搭載していました。当時39歳だったジョーンズは、1983年以来のF1復帰を果たしたのです。

THL1のデビュー戦は第12戦イタリアグランプリ。予選では25位と低迷し、ポールポジションのアイルトン・セナから9.859秒遅れという結果に終わりました。決勝では、6周目にエンジンのオーバーヒートによりリタイアを喫します。続くベルギーグランプリは、開催時期変更により欠場。第15戦南アフリカグランプリでは予選18位でしたが、ジョーンズの体調不良（インフルエンザ）により決勝に出走できませんでした。チームが政治的圧力に屈して撤退したという噂もありましたが、ジョーンズ本人はインフルエンザであることを主張し、噂を否定しています。

シーズン最終戦のオーストラリアグランプリでは、THL1の潜在能力が垣間見えました。予選19位からのスタートでしたが、スタート直後にエンジンストール。最下位からのスタートとなり、序盤は大きく遅れをとりましたが、徐々に順位を挽回し、6位まで上昇。ポイント圏内に入ることができました。しかしながら、20周目に電気系トラブルが発生し、惜しくもリタイアとなりました。このレースは、オーストラリアで50回目の開催となる記念すべきグランプリでしたが、F1世界選手権として開催されたのはこの1985年が初めてでした。

1986年シーズンとTHL1のその後

1986年シーズンに向けては、新車THL2の開発が進められており、2月には完成していました。しかし、フォード製ターボエンジンの燃費面での熟成を待つ必要があったため、THL1はシーズン序盤の3戦に出場しました。このシーズンから、チームは2台体制となり、パトリック・タンベイがジョーンズと共に参戦。THL1は依然としてハート・415Tエンジンを搭載していましたが、第3戦サンマリノグランプリでは、新型車THL2（フォード・TECエンジン搭載）がデビュー。しかし、このレースでジョーンズはTHL2を、タンベイはTHL1をドライブするという展開となりました。結果は、タンベイが予選11位、ジョーンズが21位と、タンベイの方が2.226秒速いタイムを記録しました。

THL1は、ローラという名称ながら、有名なローラ・カーズとはほとんど関係がありませんでした。チームオーナーのカール・ハースがローラの創設者エリック・ブロードレイと親交があったという程度の接点しかありません。ブロードレイはチームのチーフエンジニアとされていたものの、設計や製作には関与しておらず、THL1はハースが保有するFORCE(Formula One Race Car Engineering)によって設計・製作されました。設計チームには、将来F1界で活躍するロス・ブラウンも含まれていました。FORCE製の車ながらローラの名で登録されたため、コンストラクターズポイントはローラが獲得することになりました。

アラン・ジョーンズは、後のインタビューでTHL1に搭載されたハート・415Tエンジンについて、「子どものような仕事をするために大人を送ったようなものだった」とコメント。当時の財政状況や技術力の差から、フェラーリ、ルノー、ホンダ、BMW、TAG-ポルシェといったトップチームと比較して大きく劣後していたハートエンジンは、結果を残すことが困難でした。THL1は、1981年からF1に参戦していたハート製ターボエンジンを搭載した最後のF1マシンとなりました。 ポイントを獲得することはできませんでしたが、THL1は、F1の歴史において、決して忘れられない1台と言えるでしょう。

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