ロールス・ロイス・ファントムIV

ロールス・ロイス ファントムIV：王室と国家元首のための威風堂々たる一台

ロールス・ロイス ファントムIVは、1950年から1956年にかけて製造された、同社を代表する大型高級乗用車です。ファントムIIIの後継モデルとして、シルヴァーレイスを上回る大型車の需要に応えるべく開発されました。その歴史、技術的特徴、そして製造背景について詳細に見ていきましょう。

誕生の背景：王室からの強い需要

ファントムIIIの生産終了後も、公用車としてのロールス・ロイスへの需要は衰えませんでした。1950年7月、当時のプリンセス・エリザベス（後のエリザベス2世）のために、H・J・ミュリナーが架装を担当したリムジンが最初に製造されました。この18台のうち、3台はロールス・ロイス社内用として、7人乗りリムジン、ランドーレット、そしてピックアップトラック（「デリバリーワゴン」と呼ばれた）が製造されました。残りの15台は、王室や国家元首のために製造され、非常にフォーマルな仕様が中心でしたが、H・J・ミュリナーが製造したドロップヘッドクーペも1台存在しました。民間への販売は、多くの依頼があったにもかかわらず、全て丁重に断られたといいます。

プリンセス・エリザベスによるファントムIVの購入は、イギリス王室御料車が長年デイムラーであった伝統を覆す出来事でした。1900年に当時のプリンス・オブ・ウェールズ（後のエドワード7世）がデイムラーを購入して以来、王室とデイムラーの結びつきは深く、この転換は大きな話題となりました。なお、この発注は、イギリスにおける物品税が66 2/3％から33 1/3％に軽減された直後に行われたという興味深い事実も残っています。

強力な心臓部：直列8気筒エンジン

ファントムIVに搭載されたエンジンは、シルヴァーレイス用の直列6気筒エンジンをベースに、直列8気筒に拡大されたものです。内径88.9mm×行程114.3mm、総排気量約5675cc、圧縮比6.4というスペックを誇り、ロールス・ロイスの乗用車としては唯一の直列8気筒エンジン搭載車となりました。生産後期には、ボア径を拡大し、約6515ccにまで排気量が向上したモデルも製造されています。キャブレターはストロンバーグ製が採用され、トランスミッションはシルヴァーレイス用の4速MTをベースに、ギア比がわずかに変更されたものが搭載されました。

圧倒的な存在感：大型車体と強化されたシャーシ

ファントムIVのホイールベースは、シルヴァーレイスより12インチ延長され、145インチに達しました。この延長に伴い、シャーシは補強され、ロールス・ロイスの伝統である高い走行安定性と快適性が確保されました。その圧倒的な存在感は、他の追随を許さない風格を醸し出していました。

ファントムシリーズの系譜

ファントムIVの後継モデルは、ファントムVです。ファントムIVは、その豪華さ、力強さ、そして王室への納入実績から、ロールス・ロイスの歴史において重要な位置を占めるモデルと言えるでしょう。その生産期間は比較的短かったものの、その存在感は、現在もなお人々の記憶に強く刻まれています。まさに、ロールス・ロイスの伝統と技術の粋を集めた、一台の傑作と言えるでしょう。

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