デイムラー

デイムラー：イギリス王室御用達の高級車メーカー、その栄光と衰退

デイムラーは、かつてイギリスに存在した名門自動車メーカーです。その歴史は、ドイツのエンジニア、ゴットリープ・ダイムラーが開発したガソリンエンジンのイギリスでの生産に端を発します。ダイムラーの名を冠するこのメーカーは、ダイムラー社のエンジン技術を基盤としながらも、独自の道を歩み、イギリスの自動車史に大きな足跡を残しました。日本では、ドイツのダイムラー社と区別するため「デイムラー」または「ディムラー」と呼ばれています。

黎明期：赤旗法と王室御用達

1893年、フレデリック・リチャード・シムズはダイムラーエンジンのイギリスにおける製造・販売権を獲得し、ロンドンにデイムラー・モーター・シンジケートを設立しました。当初はモーターボートへのエンジン架装が中心でしたが、1896年に赤旗法が廃止されると、会社はコヴェントリーに移転し、デイムラー・モーター・カンパニーと改称。本格的な自動車製造に乗り出します。初期の技術はフランスのメーカーからの借用が多く、「パリのダイムラー」と呼ばれた時期もありました。しかし、ダイムラー社との関係はエンジン供給契約に留まり、それ以外の設計や製造は独立して行われていました。

1900年には、後のエドワード7世がデイムラー製の自動車を運転したことをきっかけに、イギリス王室御用達となり、6馬力のフェートンが納入されました。その後、多くの国の王室がデイムラーを採用し、日本でも1912年に最初の御料車としてデイムラーが選ばれました。

デイムラーのアイデンティティ：フルーテッドグリル

1904年、デイムラーは特徴的な波状のボンネットと、縦筋が入ったフルーテッドラジエターグリルを採用しました。このグリルはエンジンの冷却効率を高めるための工夫であり、その後ジャガーに買収された後も、デイムラーブランドの象徴として受け継がれ続けています。

戦時下の貢献と苦境

1910年、バーミンガム・スモール・アームズ（BSA）傘下に入り、軍用車両の製造を開始しました。第一次世界大戦では戦車や救急車などを生産、第二次世界大戦でも装甲車の生産に貢献します。しかし、戦後、大量生産による大衆車の台頭に押され、手作り高級車メーカーとして苦戦を強いられることになります。

ジャガー傘下へ：バッジエンジニアリングの時代

1960年、BSAは財政難からデイムラーをジャガーに売却しました。ジャガーはデイムラーブランドを存続させ、既存車種の一部を継続しつつ、ジャガー車のバッジエンジニアリングモデルをデイムラーブランドで販売する戦略をとります。1962年には、ジャガーMk2をベースにデイムラー独自のフルーテッドグリルとV型8気筒エンジンを搭載した2½V8サルーンが登場しました。

その後、ジャガーがブリティッシュ・モーター・コーポレーションに吸収合併されるなど、親会社は変遷を繰り返しますが、デイムラーはジャガーの高級車ブランドとして、フルーテッドグリルを特徴とするバッジエンジニアリングモデルを展開し続けます。デイムラー・DS420（1968年-1992年）は、ジャガーとは異なる独自モデルとして長く生産され続けました。

21世紀：ブランドの復活と終焉

2005年、ジャガーはデイムラー・スーパーエイトを発売し、デイムラーブランドを復活させましたが、2009年をもって生産終了となりました。現在、デイムラーブランドは休眠状態にあります。

まとめ

デイムラーは、イギリス王室御用達として名を馳せ、独自の技術とデザインで高級車市場を牽引したメーカーでした。ジャガー傘下でのバッジエンジニアリングモデル展開を経て、現在は休眠状態となっていますが、その歴史と伝統は、自動車史に重要な一ページを刻んでいます。フルーテッドグリルという象徴的なデザインは、かつての栄光を物語るものです。

もう一度検索