ロールス・ロイス・25/30HP

ロールス・ロイス 25/30HP：英国が誇る戦前高級車の傑作

ロールス・ロイス25/30HPは、1936年から1938年という短い期間に製造された、希少価値の高い高級乗用車です。総生産台数は1201台と限られています。このモデルは、のちに名車として知られるベントレー4¼リットルのベース車両としても重要な位置づけを持っています。1938年には後継モデルであるレイスへと進化し、25/30HPの生産は終了しました。

圧倒的な動力性能と洗練された機構

25/30HPの心臓部であるエンジンは、20/25HPモデルの直列6気筒エンジンをベースに改良が加えられています。排気量は4,257ccに拡大され、よりパワフルな走りを可能にしています。シリンダーの内径と行程は、それぞれφ88.9mmと114.3mmに設定されています。

ベアリング素材には、従来のバビットメタルからアルミニウムベースに変更されました。この変更は、騒音やスムーズさといった点ではバビットメタルに劣るものの、高速巡航性能の大幅な向上をもたらしました。当時の自動車雑誌『The Motor』誌によるテストでは、最高速度約128km/hを記録。2トンを超える高級サルーンとしては驚異的な性能を誇っていたことがわかります。0-80km/h加速は15秒、1/4マイルを23.3秒で走りきるなど、その走破性能は現代においても十分に魅力的なものです。

日本への輸入と歴史的価値

第二次世界大戦以前には、少なくとも2台の25/30HPが日本に輸入されています。そのうちの1台は、フーパー社による特注ボディをまとったスポーツサルーンです。吉田茂元首相が駐英大使時代に購入し、日本に持ち帰りました。その後、イギリスへ里帰りしてオーバーホールを受け、吉田首相没後の1971年には、その娘婿である麻生太賀吉氏によって使用されていました。現在、この車両は埼玉県加須市のワク井ミュージアムに収蔵され、実働可能な状態を保っています。

もう1台の輸入車は、スラップ&メイバリー社によって架装されたリムジンで、川崎守之助氏が所有していました。これらの車両の存在は、戦前の日本においてロールス・ロイスがいかに高い人気を誇っていたのかを示す貴重な証拠となっています。

まとめ：英国高級車の伝統と革新

ロールス・ロイス25/30HPは、伝統と技術革新を見事に融合させた、希少で歴史的な価値を持つ高級車です。その高い性能と、日本における著名な所有者の歴史は、このモデルを単なる乗り物以上の存在にしています。生産台数の少なさ、そして現存する車両の稀少性から、コレクターズアイテムとしても高い関心を集めていると言えるでしょう。今日でも、その美しいスタイルと、当時の最先端技術を感じさせる洗練された機構は、多くの自動車愛好家を魅了し続けています。

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