ローレンス・クライン

ローレンス・ロバート・クライン

ローレンス・ロバート・クライン（Lawrence Robert Klein, 1920年9月14日 - 2013年10月20日）は、20世紀後半を代表するアメリカ合衆国の経済学者です。彼はマクロ経済学と計量経済学の分野で多大な貢献をし、特に経済全体の動きを数理モデルで表現し、未来を予測する手法の開発と普及に生涯を捧げました。その功績が認められ、1980年にはノーベル経済学賞を受賞しています。

生い立ちと教育

クラインは1920年、ネブラスカ州オマハのユダヤ系家庭に生を受けました。青少年期には世界恐慌などの経済問題が身近にあり、特にジョン・メイナード・ケインズの経済理論の登場に強い関心を抱きます。同時に、数学への興味も深く、経済学を数学的に分析する手法が確立されつつある時代背景も相まって、計量経済学の道を志すことになります。

ロサンゼルス・シティー・カレッジで微積分を学んだ後、コンピューター・モデリングを学ぶためカリフォルニア大学バークレー校に進学し、1942年に学士号（B.A.）を取得します。さらに勉学を深めるためマサチューセッツ工科大学（MIT）の大学院へ進み、著名な経済学者ポール・サミュエルソン教授のもとで研究を進めました。サミュエルソン教授の助手として研究に従事しながら、1944年には博士号（Ph.D.）を授与されています。

研究活動と職歴

博士号取得後、クラインはシカゴ大学のコウルズ委員会で経済予測システムの開発と、経済政策がビジネスに与える影響の研究に携わります（1944年 - 1947年）。ここで彼は、計量経済学的手法とマクロ経済分析を結合させる研究の重要性を確信します。

1947年にはヨーロッパを巡り、各地の経済研究機関や計量経済学の研究者と交流を深めます。特にイギリスでは、リチャード・カーン、ジョーン・ロビンソン、ピエロ・スラッファ、ニコラス・カルドア、リチャード・ストーンといった著名な経済学者たちと出会いました。

帰国後、1948年には全米経済研究所（NBER）に入り、鉄道部門の生産関数推計などを行います。その後、ミシガン大学のサーベイ・リサーチ研究所との共同プロジェクトにも参加しました。1950年からはミシガン大学で計量経済学の講師を務める傍ら、オックスフォード大学統計研究所のシニアリサーチフェローも兼任します（- 1954年）。

ミシガン大学時代には計量経済モデルの構築に再び注力し、研究生のアーサー・ゴールドバーガーと共に、後に「クライン＝ゴールドバーガー・モデル」と呼ばれるモデルを作り上げます。また、1951年にはわずか6本の方程式からなる自身の名を冠した「クライン・モデル」を構築し、過去20年間の米国経済を見事に概観するとともに、朝鮮戦争後のわずかな景気後退を正確に予測しました。

1954年、マッカーシズムの政治的風潮を嫌い、学問の自由と平和な環境を求めてイギリスへ渡り、オックスフォード大学統計研究所に所属します。ここではイギリス経済のモデル開発に取り組み、「オックスフォード・モデル」の作成に貢献しました。1956年から1958年まで同研究所で計量経済学助教授を務めます。

1958年に米国に戻り、ペンシルベニア大学の教授に就任します。以降、彼の研究活動はさらに活発化し、アメリカ経済の予測モデル構築に再び着手します。「ウォートン・モデル」の開発に続き、SSRC＝ブルッキングス・モデルのような共同プロジェクトにも参加し、アルゴリズム開発において中心的な役割を果たしました。1963年にはミッシェル・エバンズ教授との共同研究により、ウォートン・モデルを融合させた予測ユニット「ウォートン計量経済予測ユニット」を立ち上げ、成功を収めます。

国際的な貢献と日本との関わり

クラインの研究は次第に国際的な広がりを見せます。イギリスや日本での経験を通じ、各国の国民経済モデルを相互に連結することの重要性を認識します。1966年にはアルゼンチン、ブラジル、メキシコのモデルを開発するなど、多数の国でモデル構築に携わりました。これらの研究が集約され、「国民経済モデルの国際連結モデル」として知られるLINKプロジェクトが誕生します。クラインはこのプロジェクトの中心メンバーとして、世界経済の動向を把握・予測するための画期的な枠組みを築き上げました。

クラインは日本とも深いつながりを持っていました。1960年夏には大阪大学の客員教授を務め、その後も度々日本に招かれました。森嶋通夫や市村真一といった日本の著名な経済学者とも交流し、新しい学術誌『インターナショナル・エコノミック・レビュー』の創刊に尽力しました。また、新開陽一と共に大阪大学の経済モデル作成プログラムに参加するなど、日本の計量経済学の発展にも貢献しました。市村真一との共編著に『中国の計量経済学モデル』、『日本経済のマクロ計量分析』があります。

受賞と晩年

クラインは計量経済学における顕著な業績に対して、1959年にジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞しました。そして1980年、世界経済の変動をモデル化し予測する計量経済学モデルの開発に対する貢献が評価され、ノーベル経済学賞を受賞しました。

学術活動に加え、クラインは「平和と安全のための経済学者（Economists for Peace and Security）」というNGOの設立にも関与するなど、社会的な活動にも熱心でした。

名誉教授となった後も、彼は世界各国のマクロ経済モデル構築に協力し続けました。2013年10月20日、ペンシルベニア州の自宅で93歳の生涯を閉じました。

ローレンス・R・クラインは、複雑な経済システムを数学的モデルで捉え、その予測精度を高める研究を先導しました。彼の開発したモデルや手法は、政府の政策決定や企業の戦略策定に大きな影響を与え、現代の経済予測の礎を築いた人物として、その名は歴史に刻まれています。

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