市村真一

市村眞一について

市村眞一（1925年3月30日 - 2024年7月3日）は、日本の著名な経済学者であり、京都大学名誉教授、大阪国際大学名誉教授、国際東アジア研究センター名誉顧問、東アジア経済学会名誉顧問といった数々の要職を歴任しました。マサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得し、大阪大学からは経済学博士号を授与されています。専門は経済発展論、アジア経済学、計量経済学であり、その研究は多岐にわたりました。

人物像

市村眞一は、戦後アメリカで経済学の博士号を取得した第一世代の経済学者の一人であり、動学的成長論や日本経済のマクロ分析において多くの業績を上げました。また、京都大学東南アジア研究センターの設立に尽力し、東南アジア研究の基盤を構築した功績は非常に大きいです。彼の経済学に対する考え方は、「どうすれば暮らしを楽にできるか」という問いに答えることであり、アルフレッド・マーシャルの言葉「頭は冷静に、心は温かく」を経済学を学ぶ者の心構えとして重視していました。

市村は保守派の論客としても知られ、産経新聞の「正論」執筆者の一員でした。福田恆存、三島由紀夫らとの共著『“憂国”の論理』は、当時の社会情勢に対する強い問題意識を示しています。また、新しい歴史教科書をつくる会や教科書改善の会にも賛同していました。

研究と評価

原洋之介は、市村の東アジア共同体に関する見解を「理想主義的でありながら現実主義的でもある」と評価しました。市村は、東アジア諸国が西洋諸国のような共同体意識を共有しなければ、アジアの一体化は困難であると指摘し、相互理解の重要性を強調しました。また、長尾信吾は、市村のアジア経済に対する視点には「政治的視点」と「パトス」が必要であるという独自性があり、その著書にはそれらが十分に反映されていると評しました。三重野文晴も、市村を高く評価しており、その影響の大きさを物語っています。

略歴

市村眞一は1925年3月30日に京都市に生まれました。以下に彼の略歴をまとめます。

1925年：京都市下京区に生まれる。
1931年：京都市梅逕尋常高等小学校に入学。
1937年：京都市第一商業学校に入学。
1941年：同校を繰り上げ卒業後、補習科に入学。
1942年：大阪外国語学校馬来語科に入学。
1944年：大阪外事専門学校インドネシア語科を繰り上げ卒業。
1944年：応召。特別甲種幹部候補生として豊橋第一陸軍予備士官学校に入校。
1945年：同校卒業、見習士官。その後、陸軍少尉に任官、復員。
1946年：京都帝国大学経済学部に入学。
1949年：京都帝国大学経済学部卒業、大学院経済学研究科に進学。
1949年：和歌山大学助手、兼和歌山経済専門学校助教授に就任。
1950年：ガリオア奨学金を得て、コロンビア大学大学院経済学部に入学。
1951年：和歌山大学経済学部講師に就任、マサチューセッツ工科大学大学院経済学科に転学。
1953年：マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了、Ph.D.を取得。和歌山大学経済学部助教授に昇任。
1956年：大阪大学経済学部附属社会経済研究室（現：大阪大学社会経済研究所）助教授に転任。
1959年：国連エスカップ技術専門家としてバンコク勤務、ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学部客員講師に就任。
1963年：大阪大学経済学部附属社会経済研究施設（現：大阪大学社会経済研究所）教授に昇任。
1965年：カリフォルニア大学バークレー校大学院経済学部客員教授に就任。
1966年：大阪大学社会経済研究所教授に配置換、ペンシルベニア大学大学院経済学部客員教授に就任。
1968年：京都大学東南アジア研究センター教授に配置換。
1969年：京都大学東南アジア研究センター所長に併任。
1980年：ボン大学（西ドイツ）客員教授に就任。
1985年：イースト・ウェスト・センター（米国ハワイ）研究員、シンガポール大学経済統計学部客員教授に就任。
1986年：コロンビア大学大学院経営学部客員教授に就任。
1988年：京都大学を定年退官、京都大学名誉教授、大阪国際大学副学長に就任。
1995年：国際東アジア研究センター所長に就任。
2002年：国際東アジア研究センター顧問に就任。
2004年：瑞宝中綬章を受勲。
2024年：老衰のため死去。

学外における役職

市村眞一は、以下の学外の役職も務めました。

Econometric Society Council Member
国連開発計画委員会委員（現:開発政策委員会）
東アジア経済学会 (EAEA: The East Asian Economic Association) 会長
社団法人日本教育会会長

研究課題

市村の研究課題は以下の通りです。

アジア、太平洋諸国の計量モデル
中国の地域間産業連関表の作成
日本とアジアの経験に基づく「発展の政治経済学」

著書

市村眞一は多数の著書を発表しており、その一部を以下に示します。

『欧米の教育と日本の教育』（創文社 1964年）
『日本経済の構造　産業連関分析』（創文社 1969年）
『試練に立つ経済大国』（日本経済新聞社 1970年）
『現代をどうとらえるか-イデオロギーを超えて-』（講談社現代新書 1970年）
『世界のなかの日本経済』（中公新書 1973年）
『歴史の流れのなかに』（創文社 1976年）
『日本経済の進路を索めて』（創文社 1985年）
『教育の正常化を願って』（創文社 1985年、増補版1990年）
『日本とアジア発展の政治経済学』(創文社 2003年)
『激変するアジア情勢と中国及び日本の国家戦略』（國民會館 2004年）
『経済学の基礎-経済循環の構造と計測-』（創文社 2005年）
『日本の教育をまもるもの　続・教育の正常化を願って』（創文社 2005年）
『皇室典範を改正しなければ、宮家が無くなる』（藤原書店 2012年）
『日本とアジア　経済発展と国づくり』（藤原書店 2022年）
『師恩友益　一経済学者の交友の想い出』（藤原書店 2023年）

編著

『現代人のための名著』（講談社現代新書 1968年）
『日本経済の計量分析-リーディングス-』（東洋経済新報社 1970年）
『共産圏諸国の政治経済の動向』（創文社 1974年）
『東南アジアを考える』（創文社 1974年）
『東南アジアの経済発展』(創文社 1975年)
『日本企業インアジア-ビジネスマンの見た東南アジア-』（東洋経済新報社 1980年）
『日本の教育・理想と苦悩』（創文社 1981年）
『アジアに根づく日本的経営』（東洋経済新報社 1988年）
『ゼミナール・現代日本の政治経済』（PHP研究所 1988年）
『中国から見た日本的経営』（東洋経済新報社 1998年）
『中国経済の地域間産業連関分析』(創文社 2004年)
『中国の計量経済学モデル』(創文社 2006年)
『日本経済のマクロ計量分析』（日本経済新聞出版社 2011年）

共著

『今昔秀歌百撰』（特定非営利活動法人文字文化協會 2012年）

訳書・英文

アレクサンダー・エクスタイン他編『中国の経済発展』(創文社、1979年)
(co-edited with Roy Bahl) Decentralization Politics in Asian Development (London: World Scientific, 2009)

関連事項

京都大学の人物一覧
大阪大学の人物一覧

脚注

原洋之介「市村アジア政治経済学から学ぶべきもの」『東南アジア研究』第54巻第1号

参考文献

* 原洋之介「市村アジア政治経済学から学ぶべきもの」『東南アジア研究』第54巻第1号、京都大学東南アジア地域研究研究所、2016年、93-116頁。

市村眞一は、経済学の研究と教育に生涯を捧げ、日本の経済学界に多大な貢献をした偉大な学者でした。

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