ローレンツ・パシュ (子)

ローレンツ・パシュ（子）

ローレンツ・パシュ（子）（Lorens Pasch den yngre, 1733年6月6日 - 1805年4月29日）は、18世紀後半のスウェーデンで最も著名な肖像画家の一人です。彼は首都ストックホルムに生まれ、自身も画家である父ローレンツ・パシュ（父）と同名であることから、「子」と区別されて呼ばれます。

彼はまさに芸術家の血を引く家系に生まれました。父ローレンツ（父）は肖像画家として活動しており、叔父ヨハン・パシュはスウェーデン王室の宮廷画家という栄誉ある地位にありました。さらに、彼の妹ウルリカ・パシュも後に画家として独自の道を歩むことになります。このような環境は、幼いローレンツ（子）のその後の進路に大きな影響を与えたと考えられます。

当初、父の希望により、ローレンツ（子）は画家の道ではなく聖職者になるための教育を受けました。10歳の頃からウプサラに移り、神学の研鑽を積むことになります。しかし、彼の心にあったのは芸術への情熱でした。結局、彼は画家の道を志すことを決意し、まず父のアトリエで絵画の基礎技術を学び始めました。

国内での修行後、彼は海外での研鑽を深める機会を得ます。叔父ヨハンの勧めもあり、デンマークのコペンハーゲンへと渡り、デンマーク王立美術院で学びました。ここでは、当時の著名な肖像画家カール・グスタフ・ピロのもとで約3年間、技術を磨きました。ピロは後にスウェーデン王立美術院の校長も務める人物であり、彼から受けた指導はローレンツ（子）の画風形成に重要な役割を果たしたでしょう。

1758年には、芸術の中心地であったフランスのパリへ移ります。ここではさらに幅広い芸術に触れ、ウスタシュ・ル・シュウールやフランソワ・ブーシェといった巨匠たちの作品から学びを得ました。また、パリ滞在中には、既に国際的に名声を確立していたスウェーデン出身の肖像画家アレクサンドル・ロスランと親交を結びました。異国の地で故国の先輩画家との交流は、彼の精神的な支えとなっただけでなく、画家としての視野を広げる助けとなったと考えられます。

約8年間の海外での修行を終え、1766年にローレンツ（子）は故郷スウェーデンに帰国します。帰国後間もなく、彼はギョーム・タラヴァルによって設立された美術学校（後のスウェーデン王立美術院）で自身の技量を披露し、その才能を高く評価されました。

祖国に戻った彼は、たちまち肖像画家として成功を収めます。特に宮廷において彼の描く肖像画は絶大な人気を博し、国王アドルフ・フレドリクや王妃からも厚い庇護を受け、多くの貴族や要人から肖像画の注文が殺到しました。彼の作品は、モデルの内面までをも捉えるような繊細さと品格を兼ね備えており、スウェーデンの肖像画の発展に大きく貢献しました。

画家として確固たる地位を築いた後、ローレンツ（子）は美術教育の分野にも尽力します。1773年にはスウェーデン王立美術院の教授に任命され、後進の指導にあたりました。さらに、1793年にはかつての師であるカール・グスタフ・ピロの後任として、同美術院の校長に就任しました。教育者としてもリーダーシップを発揮し、スウェーデンの美術界の発展に貢献しました。

ローレンツ・パシュ（子）は、画家一家に生まれた才能を、海外での厳しい研鑽と帰国後の弛まぬ努力によって開花させました。宮廷画家としての輝かしい成功と、美術教育者としての貢献を通じて、彼はスウェーデン美術史における重要な人物として記憶されています。

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