ワトソン (コンピュータ)

ワトソンは、IBMが開発した質問応答システムであり、意思決定支援システムとしての役割も担っています。しばしば「人工知能」と紹介されることもありますが、IBMはワトソンを「拡張知能（Augmented Intelligence）」と捉え、自然言語を理解・学習し、人間の意思決定をサポートする『コグニティブ・コンピューティング・システム』と定義しています。ただし、IBM自身も、特に断りがない場合はワトソンを「AI」と紹介することがあります。

ワトソンの名前は、IBMの事実上の創立者であるトーマス・J・ワトソンに由来しています。

概要

ワトソンは、2009年4月にアメリカの人気クイズ番組「ジェパディ!」への挑戦を発表し、その存在が広く知られるようになりました。このプロジェクトは、1997年にチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフに勝利したIBMのコンピュータシステム「ディープ・ブルー」に続くものです。「ジェパディ!」では、自然言語で提示される質問を理解し、文脈を踏まえた上で適切な回答を選択する必要があります。ワトソンは、この高度な情報処理能力によってクイズに挑みました。IBMは、この技術を将来的に医療、オンラインヘルプデスク、コールセンターでの顧客サービスなど、様々な分野で活用できると期待しています。

2011年1月13日には、トーマス・J・ワトソン研究所でワトソンの公開と「ジェパディ!」での人間との対戦デモが行われました。ワトソンは、10台のラックに搭載されたPower Systems 750で構成され、2880個のPOWER7プロセッサコアを搭載しています。オペレーティングシステムはLinuxで、処理性能は80テラFLOPS（TFLOPS）です。インターネットには接続せず、書籍や百科事典など約2億ページ分のテキストデータ（70GB程度、約100万冊の書籍に相当）をスキャンして取り込みました。また、学習過程でUrban Dictionaryを学習した結果、発言が下品になったこともあったとされています。

2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利し、賞金100万ドルを獲得しました。この賞金は全額慈善事業に寄付されました。「ジェパディ!」は、問題文が読み上げられた後に手元のボタンを押して回答する早押し形式ですが、ワトソンは音声認識機能を持たないため、テキストで問題を取得し、シリンダーでボタンを押す装置を用いて回答しました。

IBMは、ワトソンを支える質問応答（Q/A）システムの開発に貢献した8つの大学を発表しました。2014年には、STEINS;GATEとのコラボレーション企画として、コグニティブ・コンピューティングを紹介するショートアニメ『STEINS;GATE 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング』が公開されました。2015年には、ワトソンが各国の料理のレシピ、食品の香りや組み合わせ、嗜好性に関する心理的なデータを分析し、制作したレシピが出版されました。日本では、レシピを実際にシェフが調理するイベントも開催されました。

日本市場への展開を目指し、2015年からは日本IBMとソフトバンクテレコムが共同でワトソンの日本語学習やAPIの開発を行う共同事業をスタートさせました。2016年8月には、ワトソンが患者の白血病の正確な病名を10分で見抜き、割り出した病名に対する適切な治療によって患者の命を救ったと報道されました。

ワトソンの技術は、医療分野での診断支援だけでなく、顧客サービス、金融、教育など多岐にわたる分野での応用が期待されています。その高度な自然言語処理能力と情報分析能力は、人間だけでは処理しきれない複雑な問題を解決する可能性を秘めています。

関連項目

認知科学
データマイニング
ビッグデータ
データサイエンス
コグニティブ・コンピュータ#批判

外部リンク

公式ウェブサイト（英語）
IBM Watson - Japan
IBMのWatsonとは
今すぐ使えるWatson API／サービス一覧
Watson導入事例

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