ワラキア蜂起

ワラキア蜂起（1821年）

1821年にオスマン帝国支配下のワラキア公国で発生したワラキア蜂起は、オスマン帝国の支配に対する人々の不満が爆発した事件でした。ギリシャ独立戦争と同時期に起こりましたが、ロシアの支援を得られず、最終的にはオスマン帝国によって鎮圧されました。この蜂起は、その後のルーマニアの独立運動に大きな影響を与えました。

背景：オスマン帝国の支配と列強の思惑

オスマン帝国は14世紀以降、バルカン半島に進出し、ワラキア公国もその支配下に置かれました。ワラキアは自治を認められていたものの、オスマン帝国への貢納や公位の決定など、様々な面でオスマン帝国の影響を受けていました。

18世紀に入ると、ロシアやオーストリアといった列強国がワラキアに関心を寄せ始めます。露土戦争や墺土戦争が繰り返される中で、ワラキアは列強国の思惑が交錯する場所となりました。特にロシアは、オスマン帝国からキリスト教徒を保護するという名目で、ワラキアへの影響力を強めようとしました。

蜂起の要因：民族意識の高まりとヴラディミレスクの登場

19世紀に入ると、バルカン半島では民族意識が高まりを見せていました。セルビアではオスマン帝国に対する反乱が起こり、ギリシャでも独立運動が活発化していました。このような状況下で、ワラキアでもオスマン帝国に対する不満が高まり、蜂起の機運が熟していきます。

ワラキア蜂起の指導者となったのは、トゥドール・ヴラディミレスクという人物でした。彼は元々パンドゥル（民兵）でしたが、露土戦争に参加した際にセルビア人やギリシャ人と交流し、民族自決の思想に触れました。彼はフィリキ・エテリア（ギリシャ独立を目指す秘密結社）とも連携し、1821年1月にワラキアで蜂起を起こしました。

蜂起の経緯：ヴラディミレスクとイプシランティスの対立

ヴラディミレスクは農民兵を率いてブカレストを占拠し、ワラキアの貴族たちと協力して「統治委員会」を設立しました。彼はオスマン帝国に対して、ファナリオティス（ギリシャ人）による公位独占の廃止とルーマニア人の権利拡大を要求しました。

しかし、ヴラディミレスクの目的はギリシャの独立を支援することではなく、ルーマニア人の権利を拡大することにありました。そのため、ギリシャ独立を目指すアレクサンドロス・イプシランティス率いるフィリキ・エテリアとは、次第に対立を深めていきました。

蜂起の終焉：鎮圧とその後

ロシア皇帝アレクサンドル1世はヴラディミレスクとイプシランティスの行動を非難し、オスマン帝国軍による鎮圧を認めました。オスマン帝国軍がワラキアに侵攻すると、ヴラディミレスクはブカレストから撤退しましたが、イプシランティスによって逮捕され、処刑されました。

ヴラディミレスクを失った蜂起軍はオスマン帝国軍に鎮圧され、イプシランティスも敗れてオーストリアに逃亡しました。ワラキアは再びオスマン帝国の支配下に戻りましたが、この蜂起はルーマニア人の民族意識を高め、その後の独立運動に大きな影響を与えました。

蜂起の影響：ファナリオティス体制の廃止とルーマニアの独立

ワラキア蜂起は失敗に終わりましたが、オスマン帝国政府はファナリオティスによる統治を廃止し、ルーマニアの貴族を公位に任命するようになりました。また、1848年にはワラキアで市民革命が起こり、ルーマニアの独立運動が本格化しました。

クリミア戦争でロシアが敗北すると、ワラキアとモルダヴィアは自治を認められ、1860年にルーマニア公国として統一されました。1866年にはホーエンツォレルン＝ジグマリンゲン侯のカールが公位に即き、1877年にはルーマニアはオスマン帝国からの独立を宣言しました。

ワラキア蜂起は、ルーマニアの独立への道のりにおける重要な一歩であったと言えるでしょう。

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