ファナリオティス

ファナリオティス：オスマン帝国におけるギリシャ系特権階級の興亡

ファナリオティス（ギリシア語: Φαναριώτης）は、オスマン帝国時代に帝国の通訳官やワラキア・モルダヴィア両公国の公などの地位についた、イスタンブール在住のギリシャ系正教徒の特権的階級を指します。

ファナル地区の隆盛

「ファナリオティス」という名称は、「ファナルの人」を意味し、イスタンブール旧市街北西部の金角湾に面したファナル地区（Phanar, 現代トルコ語ではフェネル）に彼らが集住していたことに由来します。コンスタンティノープル陥落後、オスマン帝国によってコンスタンディヌーポリ総主教座がこの地区に移されたことが、ギリシャ系正教徒が集まるようになったきっかけです。

15世紀以降、ファナル地区にはギリシャ系の正教徒たちが住み着き、その中から経済的に成功する者たちが現れました。イスラム法で禁じられていた金融業に進出し、富を築いたのです。また、オスマン帝国の役人として仕える家系も現れ、貴族的な階層を形成し、オスマン帝国下の正教徒社会に大きな影響力を持つようになりました。

モルダヴィア・ワラキア両公国の支配

18世紀初頭、オスマン帝国は、属国であるモルダヴィア公国の公に裏切られた事件を契機に、ルーマニア人と同じ正教徒でありながら帝国に忠実であると考えられたファナリオティスから公を選ぶようになります。1715年にはワラキアでもファナリオティスが公に任命され、以後100年にわたり、ルーマニア人の両公国はギリシャ人であるファナリオティスの支配を受けることになりました。

ギリシャ独立戦争と没落

18世紀末頃になると、西ヨーロッパ諸国からオスマン帝国に派遣された外交官たちと日常的に接するファナリオティスの間から、西ヨーロッパで誕生した民族主義の影響を受けてギリシャ民族としての自覚を持つ動きが現れました。そして、ファナリオティスの一部が支援した秘密結社フィリキ・エテリアが1821年にルーマニアで蜂起したことをきっかけに、ギリシャ独立戦争が勃発しました。1830年、ギリシャは半島部で独立を勝ち取りましたが、この独立戦争への関与が、ファナリオティスへの帝国の信任を失わせる結果となりました。ルーマニア両公国の公への任命も打ち切られ、ギリシャ独立後には、多くのファナリオティスがイスタンブールを去り、ギリシャへ移住していきました。

その後

ファナリオティスに代わる通訳官として、オスマン帝国はムスリムの若手官僚にヨーロッパの言語と学問を学ばせるようになり、彼らがタンジマートの担い手として帝国の近代化を進めることになります。また、イスタンブールにおける金融業はアルメニア人が引き継いでゆき、19世紀末の大規模なアルメニア人迫害を迎えることになりました。

ファナリオティスの興隆と没落は、オスマン帝国の政治・社会構造の変化を象徴する出来事と言えるでしょう。

[参考]：
Phanariot Romania - ウェイバックマシン（2005年5月2日アーカイブ分）（英語）
『ファナリオテス』 - コトバンク
* 『ファナリオット』 - コトバンク

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