ワルツ イ短調 (ショパン、2024年発見)

ショパン作曲とされる「ワルツ イ短調」の発見

フレデリック・ショパンが作曲したとされる「ワルツ イ短調」が、2024年10月27日にニューヨーク・タイムズ紙によって公表され、大きな話題を呼んでいます。この楽曲の楽譜草稿は、ニューヨークのモルガン・ライブラリーに所蔵されている資料の中から発見されました。作曲時期は1830年から1835年頃と推定されており、もし真作と認められれば、1930年代後半以来約90年ぶりに見つかったショパンの新たな作品となります。

発見の経緯と原稿の物理的特徴

この貴重な原稿は、縦130ミリ、横102ミリの小さなサイズで、2019年にモルガン・ライブラリーの職員が遺贈品の目録作成作業中に偶然発見されました。この資料は、かつてアマチュアピアニストであり、ニューヨーク・スクール・オブ・インテリア・デザインの元学長であったオーガスタス・シェリル・ウィトン2世の妻からアーサー・サッツ氏が購入し、後に図書館に遺贈されたものに含まれていました。

原稿に使用されている茶色の没食子インクや、やや黄色みを帯びた厚手の機械製造による網目紙は、ショパンが当時使っていた筆記具や用紙の特徴と一致しています。さらに注目すべきは、紙が「緑がかった風合い」を見せている点で、これは彼がパリに到着したばかりの頃に使用していた用紙の特徴であり、ワルシャワ時代の楽譜用紙とは区別できる手がかりとなります。

筆跡と真正性に関する議論

楽譜の筆跡も、一般的にショパンのものとされる特徴（例えば、小さな音符や特定の形のヘ音記号）と多くの点で一致しています。ただし、ショパンの友人であるユリアン・フォンタナも同様のヘ音記号を用いることがあり、これが原因で両者の原稿が混同された過去もあります。また、楽譜上部に書かれた「Valse」という文字はショパンの筆跡と考えられていますが、「Chopin」という署名は他者の手によるものです。記譜法の筆跡学は書簡などのそれほど体系化が進んでいないため、筆跡のみでの断定には限界があることも指摘されています。

音楽学者のジェフリー・コールバーグ氏は、音楽的な観点からこの草稿がショパン自身によって作曲されたものである可能性が高いと見ています。フレデリック・ショパン研究所の所長であるアルトゥル・シュクレネル氏は、本作が1830年代前半のショパン作品に典型的な「華麗な様式」を示していることは認めつつも、草稿が整然としていることからレッスン中に生徒のために書かれたものではないだろうと述べています。しかし、献辞や署名がない点を挙げ、このような形式の草稿を贈答用とすることは考えにくいとの見解を示しています。

作品の性格付けと構成

シュクレネル氏は、発見された草稿は完成された作品というよりは「音楽的着想を書き留めたもの」や「ピアノを介したコミュニティにおけるショパンの活動の痕跡」に近いものと見なしており、これをショパンのワルツ第20番として正式に分類することには否定的です。一方で、旋律の装飾や伴奏における特徴的な「2度ずつの動き」は、ショパンらしい書法であると認めています。

この楽曲は24小節からなる比較的短い楽想で構成されており、反復記号によって繰り返して演奏されます。演奏時間は約1分から1分20秒程度と、ショパンのワルツとしては極めて短い部類に入ります。曲は3/4拍子、イ短調で書かれており、楽譜には運指の指示も含まれています。特に目を引くのは、開始直後の主題が提示される直前の部分に、ショパンとしては珍しい強弱記号であるフォルティッシッシモ（fff）が指定されている点です。ピアニストのラン・ランはこの部分を、ポーランドの田舎の冬を想起させる表現であると述べています。

初録音と今後の評価

このワルツは、ピアニストのラン・ランによって初めて商業録音され、ドイツ・グラモフォンより2024年11月8日にデジタル・シングルとしてリリースされました。

今回の発見は、これまで知られていなかったショパンの一面を示す可能性を秘めていますが、その最終的な真正性や作品としての位置づけについては、今後さらなる研究や議論が必要となるでしょう。同時期にモーツァルトの作品発見（「ガンツ・クライネ・ナハトムジーク」）も報じられており、クラシック音楽界における未発見作品への関心が高まっています。

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