ワンハイブリッド法

ワンハイブリッド法（One-hybrid法）

概要

ワンハイブリッド法は、特定のDNA配列とそれに結合するタンパク質の相互作用を細胞内で検出するための分子生物学的な手法です。DNAに結合する性質を持つタンパク質（DNA結合タンパク質）を探索したり、ある特定のDNA配列にどのタンパク質が結合するかを確認したりする際に用いられます。タンパク質同士の相互作用を調べるツーハイブリッド法とは異なり、本手法は「DNAとタンパク質」の結合に特化しています。

原理

この手法は、遺伝子の転写活性化機構を利用しています。転写因子などのタンパク質は、特定のDNA配列（プロモーターなど）に結合し、下流の遺伝子の転写を調節します。多くの場合、転写因子はDNA結合ドメインと転写活性化ドメインという機能ドメインを持ちます。DNA結合ドメインが標的配列に結合すると、転写活性化ドメインが転写装置をリクルートし、転写を促進します。

ワンハイブリッド法では、この原理を応用し、調べたいDNA配列とタンパク質の相互作用をレポーター遺伝子の発現というシグナルに変換します。具体的には、以下の要素を宿主細胞（主に酵母）内に導入します。

手法

1. レポーター遺伝子コンストラクト: 発現を容易に検出できるレポーター遺伝子（例：lacZ、HIS3など）を用意し、そのプロモーター領域の上流に、調べたい特定のDNA配列（bait配列）を挿入します。このbait配列は、候補タンパク質が結合すると予想されるDNA配列です。

2. 候補タンパク質コンストラクト: 調べたい候補タンパク質の遺伝子配列を、強力な転写活性化ドメインを持つタンパク質の遺伝子配列と連結させ、融合タンパク質として宿主細胞で発現させます。

これらのコンストラクトを導入した細胞を培養します。

結果の解釈

相互作用がある場合: 候補タンパク質がbait配列に結合する能力を持つと、融合タンパク質がbait配列に結合し、連結された転写活性化ドメインがレポーター遺伝子の近くに配置されます。これによりレポーター遺伝子の転写が促進され、検出可能なレベルでレポーター遺伝子が発現します。この発現を検出することで、候補タンパク質とbait配列の相互作用を確認できます。発現レベルは相互作用の強さを示す指標となり得ます。

相互作用がない場合: 候補タンパク質がbait配列に結合しない場合、転写活性化ドメインはレポーター遺伝子の近くに引き寄せられず、レポーター遺伝子の発現は促進されません。レポーター遺伝子の発現が見られないことから、相互作用がないと判断できます。

応用と利点

ワンハイブリッド法は、特定のDNA配列に結合するタンパク質（転写因子など）の探索や、あるタンパク質のDNA結合特異性の確認に有用です。宿主細胞内で行われるため、比較的簡便に多数の候補や配列をスクリーニングすることが可能です。

ツーハイブリッド法との比較

ツーハイブリッド法はタンパク質同士の相互作用を調べる手法であり、ワンハイブリッド法とは対象が異なります。ツーハイブリッド法では、二つの候補タンパク質をそれぞれDNA結合ドメインおよび転写活性化ドメインとの融合タンパク質として発現させ、両者が相互作用することでこれらのドメインが近接し、レポーター遺伝子の発現を駆動します。ワンハイブリッド法はこの原理をDNA-タンパク質相互作用に適用したものです。

この手法は、DNA結合タンパク質の機能解析や、遺伝子発現制御機構の解明に貢献しています。

もう一度検索