ウラジミールとローザ

『ウラジミールとローザ』（1970年）は、ジャン＝リュック・ゴダールとジャン＝ピエール・ゴランを中心とした映画集団ジガ・ヴェルトフ集団が共同で監督したフランス・西ドイツ合作映画です。1968年のシカゴ・セブン裁判を題材に、アメリカ社会への痛烈な批判と、革命運動や社会変革への複雑な視点を提示する作品として知られています。

ゴダールは、1968年から1972年にかけて撮影された『ワン・アメリカン・ムービー』の制作を通して、ベトナム反戦運動の活動家トム・ヘイデンと出会います。この出会いと、シカゴ・セブン裁判が本作に大きな影響を与えたとされています。映画は、裁判の再現劇や被告たちの日常を演劇的に描き出しながら、ブラックパンサー党や当局との関係性にも触れ、複雑な社会情勢を浮き彫りにしています。さらに、ジガ・ヴェルトフ集団内部での議論や総括といったメタ的な要素も取り入れ、映画制作そのものへの自己言及的な側面も見られます。

映画全体を通して反米的な姿勢が貫かれており、アメリカの政治体制や社会構造に対する強い批判が表現されています。ゴダールとゴランは、それぞれウラジミール・レーニンとカール・ローザという仮名を用いて、映画の中で道化的な役柄を演じています。この演出は、彼らの政治的スタンスと、映画における虚構と現実の曖昧な境界を強調する役割を果たしています。

キャストには、ゴダール作品に多数出演しているベテラン俳優に加え、当時若手だった俳優たちも参加しています。イヴ・アフォンソは、革命派学生役を熱演。ゴダール作品への出演経験が豊富な彼女は、本作でも確かな演技力を発揮しています。天気予報ガール兼ヒッピー役のジュリエット・ベルトは、ゴダール作品で培った独自の雰囲気を本作にも持ち込んでいます。そして、アンヌ・ヴィアゼムスキーは、当時ゴダールと結婚していたこともあり、戦闘的女性運動家役として強い存在感を示しています。エルネスト・メンジェルは、ユーモラスな「ユリウス・ヒムラー判事」を演じ、映画に独特のスパイスを加えています。さらに、クロード・ネジャールは、シカゴ・セブンのメンバーの一人であるデイヴィッド・デリンジャーを演じています。彼は映画プロデューサーとしてのキャリアも持ち合わせており、映画制作の裏側を知る人物として、作品にリアリティを与えていると言えるでしょう。

『ウラジミールとローザ』は、16mmフィルムによるカラー作品で、上映時間は約106分。アスペクト比はスタンダードサイズの1:1.37です。日本での公開は遅れ、2012年にオーディトリウム渋谷での上映が初となりますが、それ以前の2003年には東京日仏学院でも上映されています。この映画は、単なる政治映画にとどまらず、映画制作における実験性、政治的メッセージ、そして集団内部の葛藤といった多様な要素を複雑に絡み合わせた、ゴダールとジガ・ヴェルトフ集団の挑戦的な作品と言えるでしょう。その革新的な手法と政治的なメッセージは、現代においても多くの観客を魅了し続けています。歴史的背景や社会状況への理解を深め、複雑な人間関係や政治的思潮を多角的に考察することで、この映画の持つ奥深さをより深く味わうことができるでしょう。

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