ワールドトレードセンターの建設

ワールドトレードセンター建設の概要

ニューヨーク市におけるワールドトレードセンターの建設は、デイヴィッド・ロックフェラー主導の都市再開発プロジェクトとして始まりました。ロウアー・マンハッタンの再活性化を目指し、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社（以下、港湾公社）が推進しました。建築家ミノル・ヤマサキがツインタワーの設計を手がけ、多岐にわたる協議を経て、両州政府が計画を支援することで合意しました。

ニュージャージー州側の譲歩として、港湾公社は経営難のハドソン・アンド・マンハッタン鉄道（H&M鉄道）を買収し、PATHと改名しました。ツインタワーの設計にはチューブ構造が採用され、柱のない開放的なオフィス空間を提供しました。外周の鉄骨柱と中央のコア支柱が構造を支え、スカイロビーを設けることでエレベーター効率を高め、オフィス面積を最大化しました。

1968年8月に北棟、1969年に南棟が着工し、プレハブ部材の多用により建設速度が加速されました。1970年代には低層ビルも建設され、1980年代中頃には7棟目のビルが完成しました。

ワールドトレードセンター建設の立案

港湾公社のエグゼクティブ・ディレクター、オースティン・J・トービンが計画を監督しました。第二次世界大戦後、アメリカの貿易額が増加する中で、「世界貿易センター」の設置が計画されました。1946年、ニューヨーク州議会が創設を求め、ワールドトレード社が設立されましたが、1949年に解散し、計画は保留されました。

当初計画

戦後、マンハッタンの経済成長はミッドタウンに集中し、ロウアー・マンハッタンは取り残されました。デイヴィッド・ロックフェラーは再開発を主導し、ダウンタウン・ロウアー・マンハッタン・アソシエーション（DLMA）を設立しました。DLMAはスキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリルに再活性化計画を依頼し、イースト川沿いの土地に世界貿易センターの複合施設を建設する案を提示しました。この案にはコンベンションセンターやホテル、商業施設が含まれていました。

ロックフェラーは港湾公社の関与を提案し、トービンはニューヨーク港の重要性を鑑み、単なる「世界貿易センター」ではなく唯一の「ワールドトレードセンター」であるべきだと主張しました。1961年3月、港湾公社は正式にプロジェクトへの支援を表明しました。

合意形成

計画実現にはニューヨーク州とニュージャージー州の認可が必要でした。ニュージャージー州知事は当初反対しましたが、港湾公社がH&M鉄道を買収することで合意に至りました。1962年1月、両州政府は港湾公社によるH&M鉄道の買収と、マンハッタン・ロウアー・ウエスト地区でのWTC建設を認可しました。

論争

WTC建設予定地はラジオ・ロウ地区にあり、立ち退きを迫られた事業者は猛反発しました。1963年、最高裁判所が立ち退きを認めたものの、多くの事業者は港湾公社の支援を不十分とみなしました。また、民間デベロッパーはWTCのオフィスが一般市場と競合することを懸念し、エンパイア・ステート・ビルの所有者は「世界一高いビル」の称号を失うことを批判しました。

1964年、ニューヨーク州政府がWTCに入居することを決定し、営利目的のテナントとの契約も始まりました。1966年、港湾公社はニューヨーク市と税金の支払いに関して合意しました。

設計

1962年9月、ミノル・ヤマサキが主任建築家に選ばれ、エメリー・ロス・アンド・サンズ社が共同設計者となりました。ヤマサキは当初80階建てのツインタワーを提案し、1964年1月には最終設計が発表されました。ツインタワーは幅の狭い窓が特徴で、高所恐怖症のヤマサキが高さに対する恐怖を感じさせないように配慮した結果でした。

港湾公社は1000万平方フィートのオフィス面積を要求し、各タワーは110階建てとなりました。エレベーター問題に対処するため、ヤマサキはスカイロビーを活用したシステムを導入しました。ツインタワーの設計にはイスラーム建築の特徴も取り入れられました。

WTCの設計は美的観点から批判を受け、テレビ放送の受信障害や渡り鳥への脅威も指摘されました。構造設計はワーシントン・スキリング・ヘル&ジャクソンが担当し、チューブ構造を発展させました。

構造設計

ツインタワーには超高層ビルの構造設計における新機軸が数多く取り入れられました。チューブ構造により、柱のない広いオフィス空間が実現しました。外周柱が水平荷重を負担し、コア柱と分担しました。外壁構造はプレハブ部材を使用して組み立てられ、鋼材の使用量を削減しました。

床は梁を渡すことで形成され、柱や体力壁のない広い空間が作られました。トラス構造はフロアの重量を支え、外壁構造の安定性を高めました。ハットトラスはアンテナの荷重を支え、構造を安定化させる役割を果たしました。

耐風設計

WTCは風洞実験に基づいて設計され、横揺れを低減するために粘弾性ダンパーが導入されました。風荷重に対する構造物の応答や、ビル内部の人間が耐えられる横揺れレベルが評価されました。

航空機衝突への対策

WTCの構造設計者は、航空機衝突の可能性を考慮し設計を行いました。過去の事例を参考に、低速で飛行中の航空機が濃霧で方向感覚を失い、タワーに衝突するというシナリオを想定しました。

防火設計

ツインタワーの鋼構造部材には耐火被覆材が施されましたが、1968年のニューヨーク市建築基準法では防火基準が緩和され、非常階段の数が減りました。1975年の火災を教訓に、耐火被覆が追加され、スプリンクラー設備の設置も進められました。しかし、2001年のテロ発生時には、改修作業は完全には完了していませんでした。

建設

1965年3月、港湾公社は建設予定地の取得を開始し、解体作業が始まりました。1966年8月5日には起工式が行われ、基礎工事が開始されました。ハドソン川からの水の侵入を防ぐため、スラリー壁工法が採用されました。建設にはプレハブ部材が多用され、建設速度と品質が向上しました。

クレーンによる吊り上げ作業はカール・コッチ・エレクティング・カンパニーが担当し、アルミニウム製ファサードはアルコアが設置しました。1970年、タグボート労働者のストライキで建設が中断されるなど、いくつかの不測の事態に見舞われました。1970年12月に北棟、1971年7月に南棟が上棟し、1973年4月4日に落成式が行われました。

WTCの建設で掘り出された土砂は、ハドソン川を埋め立てるために利用され、マンハッタンの土地面積を拡大しました。当初の見積もりを大幅に超え、総建設費は9億ドルに達しました。

その他のビル

WTCコンプレックスには、ツインタワー以外に1970年代に建設された4棟のビルが含まれていました。1980年代中頃には7 WTCが完成しました。

改修

長年にわたり、テナントの要望に応じた構造的な改修が行われました。1993年の爆破事件により、低層階の構造部材に対する修復工事が必要になりました。爆発で受けた構造的なダメージを修復し、コンプレックス全体の安全性を確保するために、設備の改修が進められました。

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