ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲

ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 作品21

エルネスト・ショーソン（Ernest Chausson, 1855-1899）のヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 作品21は、1889年から1891年にかけて作曲された室内楽曲です。

裕福な家庭に育ったショーソンは、当初は親の意向に従い法律家を目指し、1877年に弁護士資格を取得しました。しかし、同時期に音楽への情熱を抱き作曲も始めており、作曲を学ぶために訪ねたジュール・マスネに才能を見出され、25歳となった1879年にパリ音楽院に入学します。音楽院ではマスネに作曲を師事する傍ら、セザール・フランクのクラスにも聴講生として通いました。マスネは彼を1881年のローマ大賞に挑ませましたが、入賞は叶いませんでした。この結果を機にマスネのもとを離れたショーソンですが、フランクにはその後も約10年間、師事し続けます。フランク門下での長年の研鑽を通じて、彼は循環形式をはじめとする技法に加え、精神面でも多大な影響を受け、独自の抒情性豊かな音楽世界を育んでいきました。

この協奏曲の作曲は、まず1889年5月に全楽章の主要主題の着想をまとめて得られたことから始まりました。これをもとに、同月中に第3楽章が最初に完成。続いて第2楽章（1890年10月～11月）、第1楽章（1891年6月）、そして第4楽章（1891年7月）の順に作曲が進められ、全曲が完成しました。初演は1892年3月4日、ブリュッセルで行われ、ヴァイオリンをウジェーヌ・イザイ、ピアノをオーギュスト・ピエレが務め、クリックボーム、ビールマス、ヴァン・ホウト、ヤコブによる弦楽四重奏が共演しました。音楽家としての評価を得るのに苦労し、「自信をつけることがライフワークである」と日記に綴るほど自信が持てずにいたショーソンでしたが、この作品の初演は聴衆から熱狂的な支持を得るという大成功を収めます。彼はその時の喜びを日記にこう書き記しています。「私は自分の音楽がとりわけベルギー人のために生まれたものであると信じざるを得ない。これほどの成功をかつて経験したことがないのだから（中略）長年感じることのかなわなかった眩暈と喜びを感じている（中略）今後は私ももっと自信を持って仕事ができそうに思われる。」

作曲者自身が「Concert（協奏曲）」と名付けた本作ですが、実際の楽器編成はヴァイオリン、ピアノ、そして弦楽四重奏という六重奏です。ヴァイオリンとピアノが独奏楽器のように扱われ、弦楽四重奏がオーケストラの総奏（トゥッティ）に相当する役割を担うため、室内協奏曲と見なすことも可能です。一方で、ヴァイオリンソナタやピアノ六重奏曲といった性格も併せ持ち、楽器間の役割分担に着目すれば「弦楽四重奏伴奏つきのヴァイオリンとピアノのための二重奏曲」と捉えることもできるかもしれません。また、「Concert」という語には、現代的な「協奏曲」という意味合いだけでなく、18世紀フランスでジャン＝フィリップ・ラモーやフランソワ・クープランらが用いた「コンセール」のように、室内楽的な響きの中で複数の楽器が対話するスタイルを意識した可能性を示唆する見解も存在します。この曲はヴァイオリニストのイザイに献呈されました。ショーソンはまた、自身の代表作の一つである『詩曲』を、この協奏曲と同じ編成（ヴァイオリン、ピアノ、弦楽四重奏）のために編曲しています。

全曲の演奏時間は約40分です。

楽曲構成

本作は4つの楽章で構成されています。

第1楽章 決然と（Décidé）

ニ長調、2/2拍子。ソナタ形式。重々しいピアノの単独の響きに始まり、低弦が加わってやや穏やかになる導入部を持ちます。主部は「Animé」となり、ピアノの広がるアルペジオの上で独奏ヴァイオリンが力強く第1主題を奏でます。この主題はピアノに引き継がれ、弦楽四重奏も加わって展開されます。間断なく経過主題が現れ、展開部へと進みます。展開部は古典的な形式とは趣を異にし、第1主題や経過主題が扱われ、半分の音価になった主題による強奏と静寂の対比、そして第2主題の発展などが特徴的です。ヴァイオリンのレチタティーヴォ風パッセージで展開部を終えると、第1主題が充実した響きで再現されます。起伏に富んだ経過部の後、第2主題もヴァイオリンとピアノ、チェロによって力強く再現されます。提示部よりも緊迫感を増した再現部の後、最後のクライマックスを経て、第1主題を静かに回想しながら穏やかに楽章を閉じます。

第2楽章 シシリエンヌ: 速くなく（Pas vite）

イ短調、6/8拍子。シチリアーナ特有のリズムに貫かれた優美な楽章で、ヴァンサン・ダンディはこの楽章が「我々をガブリエル・フォーレの庭へといざなう」と評しました。形式はロンド形式に近い構成です。冒頭、独奏ヴァイオリンによってイ短調の主題が提示されます。この主題がピアノによってイ長調で繰り返されるなど、いくつかのエピソードを挟みながら進みますが、他の素材は主題との対比が明確ではありません。やがて主題が再現される際には、演奏する楽器が増えていき、ピアノの幅広いアルペジオとともに大きな盛り上がりを築きます。ヴァイオリンの長いトリルを境に落ち着きを取り戻すと、最後はイ長調の主和音の中で静かに主題の断片が聞かれながら楽章を終えます。

第3楽章 荘重に（Grave）

ヘ短調、3/4拍子。陰鬱な雰囲気を持つ緩徐楽章です。静かなピアノの半音階的な音型の上に、3小節目から独奏ヴァイオリンが憂鬱な主題を奏でます。弦楽四重奏も加わりますが、ピアノの低音部が三連符となり、符点リズムを刻む頃には、独奏ヴァイオリンが熱のこもった新しい素材を提示します。この素材はニ短調でも繰り返され、情熱的なピアノ伴奏とともに高揚します。落ち着きを取り戻すと、主題に現れた半音階的な音型が変形されて高音に現れます。以降は提示された素材が扱われ、次第に興奮を高めていき、その頂点で冒頭の主題が荘重に回帰します。その後は勢いを失い、ピアノが半音階的な音型で下降しながら静まり、最弱音で楽章の幕を閉じます。

第4楽章 非常に活発に（Très aminé）

ニ短調、6/8拍子。ソナタ形式。前奏なしに始まり、冒頭からピアノが勢いのある第1主題を提示し、弦楽四重奏がピッツィカートでこれを支えます。続いて、生き生きとした性格の経過主題がピアノや他の楽器で代わる代わる奏されます。一度調子を整えた後、先行するピアノに導かれて独奏ヴァイオリンが変ロ長調で第2主題を提示します。そのまま滑らかな流れの中で別の旋律（譜例11に相当）を奏でて提示部を終えます。展開部では、第1主題に始まる活発な展開の中で、低弦に第3楽章の主題（譜例7に相当）が拡大されて現れる点が特徴的です。展開が精力的に進み、全ての弦楽器がユニゾンで第3楽章の主題を奏してクライマックスを形成します。ニ短調で始まる再現部では、第1主題に続き、経過主題、第2主題（ヘ長調）、そして提示部の結びの旋律が次々と再現されます。楽章の終わりは、ニ長調、3/4拍子となり速度を上げてコーダへと入ります。ここではまず第1主題が発展していき頂点に達すると、再び第3楽章の主題が回想されます。最後に、第1楽章の第1主題が回顧され、興奮のうちに全楽器がユニゾンのニ音を奏して全曲の堂々たる終結を迎えます。

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