フランソワ・クープラン

フランソワ・クープラン：バロック音楽の巨匠

フランソワ・クープラン（1668年 - 1733年）は、バロック時代のフランスを代表する作曲家であり、音楽家一族クープラン家の中でも特に著名な人物です。「大クープラン」とも称され、その作品は今日でも高く評価されています。

生涯

クープランは、1668年パリで生まれました。父シャルルも音楽家で、サン・ジェルヴェ教会のオルガニストを務めていました。幼少期から音楽教育を受け、10歳で父を亡くした後、ジャック・トムランに師事しました。18歳で父の後を継ぎ、サン・ジェルヴェ教会のオルガニストとなりました。

1689年にはマリ＝アンヌ・アッソーと結婚し、1690年には初の出版作品となるオルガン曲集を発表しました。1693年にはルイ14世によって国王のオルガニストに任命され、宮廷との結びつきを強めました。王族へのクラヴサン指導や王室楽団での演奏、作曲活動など、多岐にわたる活動を行いました。

クープランは、1713年に『クラヴサン曲集第1巻』を出版しました。この曲集は、それ以前から手稿譜で出回っていた作品をまとめたもので、アルマンドやクーラントといった舞曲だけでなく、描写的な標題を持つ作品が多く含まれています。クープラン自身は、「これらの楽曲を作曲する際、私の頭のなかにはさまざまなおりに得た対象があった」と述べていますが、標題の意味が現在では不明なものも多くあります。

1716年にはクラヴサン奏法に関する著作『クラヴサン奏法』を出版しました。この著作は、演奏の姿勢、教授法、運指法、装飾音の解説など、演奏に関する多岐にわたる内容を記したもので、当時の演奏習慣を知る上で貴重な資料となっています。また、自身のクラヴサン曲集の演奏に関するアドバイスも含まれています。

1717年には『クラヴサン曲集第2巻』が出版され、組曲の形式に捉われない、描写的な標題を持つ作品が増加しました。また、同時期には宗教声楽曲『ルソン・ド・テネブレ』も作曲されました。1722年には『クラヴサン曲集第3巻』が出版され、『王のコンセール』がそれに続き、その後も『趣味の融合、あるいは新コンセール』、『比類なきリュリ氏の思い出にささげる賛歌のコンセール』など、精力的に作品を発表しました。

晩年は体調を崩し、1730年に出版された『クラヴサン曲集第4巻』の序文では、健康状態の悪化について述べています。1733年9月11日、クープランは64歳でその生涯を閉じました。

作品

クープランの作品は、クラヴサン曲、オルガン曲、室内楽曲、宗教声楽曲、世俗声楽曲など多岐にわたりますが、中でもクラヴサン曲は彼の作品の中心をなすものです。

クラヴサン曲

クープランのクラヴサン曲は、4巻の曲集にまとめられており、約220曲の小品が27のオルドル（組曲）を構成しています。これらの作品は、舞曲だけでなく、描写的な標題を持つ小品が特徴的で、各曲には音楽的な性格を表す標題が付けられています。各オルドルには、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグといった舞曲が含まれることが一般的ですが、それ以外の自由な形式の曲も多く、クープランの創造性が発揮されています。

各曲の標題は、人物、風景、感情など様々で、クープランの豊かな音楽的想像力を示しています。例えば、第1巻の「蜜蜂」や「蝶々」といった描写的な小品は、音楽的な表現によって、それぞれの情景が目に浮かぶようです。また、「恋のサヨナキドリ」や「嘆きのムシクイたち」といった鳥を題材にした作品は、その鳴き声の特徴を捉え、音楽的に表現しています。標題は音楽の理解を深める手がかりとなり、聴衆をクープランの音楽世界へと誘います。

# 『クラヴサン曲集』

第1巻 (1713): 第1から第5オルドルを収録。舞曲の形式を守りつつ、標題音楽の要素も取り入れた作品が多く見られます。有名な曲として「蜜蜂」や「蝶々」などがあります。
第2巻 (1716-1717): 第6から第12オルドルを収録。組曲の形式が緩やかになり、描写的な作品が増加しました。「神秘的な障壁」や「子供時代」など、独特な標題を持つ作品が特徴的です。
第3巻 (1722): 第13から第19オルドルを収録。標題音楽の傾向がさらに強まり、「フランスのフォリア」や「恋のサヨナキドリ」など、物語性のある作品が多く見られます。
第4巻 (1730): 第20から第27オルドルを収録。晩年の作品で、より内省的な表現が特徴的です。「幻影」や「神秘」など、抽象的な標題を持つ作品が目立ちます。

オルガン曲

クープランはオルガニストとしても活躍し、『2つのミサ曲からなるオルガン曲集』を作曲しました。これらの作品は、荘厳で典礼的な性格を持ち、教会の礼拝で用いられました。

室内楽曲

クープランは、トリオ・ソナタやコンセール（合奏協奏曲）といった室内楽曲も作曲しました。これらの作品は、イタリアの様式を取り入れつつ、フランス的な繊細さや優美さを兼ね備えており、彼の多才な才能を示すものです。

『王のコンセール』や『趣味の融合、あるいは新コンセール』といった作品は、多様な楽器の組み合わせによって、色彩豊かな音楽を生み出しています。

宗教声楽曲

クープランは宗教音楽にも貢献し、モテットや『ルソン・ド・テネブレ』を作曲しました。これらの作品は、敬虔な感情と美しい旋律が特徴的で、彼の宗教的な側面を表しています。

世俗声楽曲

世俗声楽曲には、カノンや歌曲などがあります。これらの作品は、親しみやすい旋律と軽快なリズムが特徴です。クープランの音楽は、宗教的なものから世俗的なものまで、幅広い分野にわたって、その才能を発揮しています。

音楽的特徴

クープランの音楽は、バロック音楽の伝統を踏襲しつつも、独自の個性を発揮しています。彼の作品は、繊細な装飾音や、優雅な旋律、そして豊かな和声が特徴的です。

また、クープランの作品は、標題によって音楽的な情景を喚起する描写的な要素が強く、聴衆を物語の世界へと誘います。彼の音楽は、単なる音の連なりではなく、感情やイメージを表現する手段として用いられています。

クープランは、バロック音楽の発展に大きく貢献し、その音楽は今日でも多くの人々に愛されています。彼の作品は、単なる歴史的な遺産ではなく、現代の音楽家や聴衆にとっても、豊かなインスピレーションの源泉となっています。

参考文献

Higginbottom, Edward. “François Couperin (ii) [le grand].” In The New Grove Dictionary of Music and Musicians. 2nd ed. Ed. by Stanley Sadie. London: Macmillan, 2001.
桒形亜樹子「不等分か等分か? : フランス18世紀音律の色彩、その曖昧さの魅力」『東京藝術大学音楽学部紀要』vol.35, pp.59-73, 2009年。
ピエール・シトロン著、遠山一行訳『クープラン』白水社、1970年。
松前紀男『クープラン：その家系と芸術』音楽之友社、1985年。
ジェーン・クラーク、デレク・コノン共著、見坊澄訳『人生の鏡 : フランソワ・クープランのクラヴサン曲集は何を映し出すのか』2012年。

外部リンク

フランソワ・クープラン - ピティナ・ピアノ曲事典
フランソワ・クープランの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
François Couperinに関連する著作物 - インターネットアーカイブ

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