ヴァイオリンソナタ第19番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト：ヴァイオリンソナタ第19番 変ホ長調 K. 302

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したヴァイオリンソナタ第19番は、変ホ長調、ケッヘル番号K. 302（自筆譜が失われたため、新全集ではK. 293bと付記されることもあります）を冠する作品です。また、新モーツァルト全集においては第12番として整理されています。

概要

このソナタは、モーツァルトが1778年頃に旅先で作曲したいわゆる「パリ・ソナタ」と呼ばれる6曲のヴァイオリンソナタ群に含まれる作品の一つです。その中でもこの第19番は、シリーズの2番目にあたる楽曲として位置づけられています。作曲は1778年の2月頃、滞在先のマンハイムで行われたと考えられています。

「パリ・ソナタ」の最初の作品である第18番が、ひたすらに抒情的な美しさを追求した性格を持つのに対し、この第19番は全く異なる、鮮烈な対比を見せる世界を描き出しています。前作の繊細な感情表現から一転、ここではダイナミックで力強い表現が前面に押し出されており、作曲家の多様な音楽的関心を示しています。

構成

本作は、モーツァルトのヴァイオリンソナタとしては一般的な2楽章構成を取っています。全曲を通しての演奏時間は約11分程度です。

第1楽章：アレグロ

変ホ長調、4分の3拍子で書かれ、ソナタ形式に基づいています。この楽章の主題提示部を特徴づけるのは、冒頭に現れる第1主題です。この主題は、力強く飛び跳ねるような分散和音の動機と、それに対比するなだらかな旋律線という二つの要素から生み出されています。この独自の性格を持つ第1主題は、楽章全体を通して楽曲を牽引し、強い支配的な役割を果たします。

第2楽章：ロンドー：アンダンテ・グラツィオーソ

この楽章も変ホ長調ですが、4分の2拍子となり、ロンド形式で構成されています。楽章の中心となる主要主題は、親しみやすくリート（ドイツ歌曲）を思わせる旋律が特徴です。この主要主題が繰り返し現れる間に、異なるエピソードが挟まれる形で音楽は進行していきます。特にピアノパートには、演奏家の創造性が試される即興的なカデンツァが用意されており、演奏に彩りを加える要素となっています。

このソナタは、短いながらもモーツァルトがこの時期に探求していた、楽器間の対話と各楽器の特性を活かした表現が見られる作品であり、「パリ・ソナタ」群の中でも特に力強く個性的な魅力を持つ一曲と言えるでしょう。

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