ヴァイオリンソナタ第37番 (モーツァルト)

ヴァイオリンソナタ第37番 イ長調 K.402(385e)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが手掛けたヴァイオリンソナタの一つに、イ長調のK.402(385e)があります。この作品は、完成された他の多くのソナタとは異なり、残念ながら未完のまま残されました。モーツァルトのヴァイオリンソナタの中では、ケッヘル目録におけるK.55からK.61までの偽作（特にK.61はヘルマン・フリードリヒ・ラウパッハの作品であることが判明しています）を除くと、実質的には第29番にあたります。

作曲の背景

このソナタがどのような経緯で作曲され始めたのか、その動機については明確な記録が残されていません。一説には、モーツァルトが愛妻コンスタンツェのために筆を執ったのではないかと推測されていますが、これも確証を得るには至っていません。作曲された時期についても特定されておらず、1782年か1784年のいずれかにウィーンで書かれたのではないかと考えられています。このように、このソナタの誕生に関する情報は謎に包まれています。

楽曲構成と未完の部分

このソナタは、最終的に補筆を経て2つの楽章からなる構成となっています。

第1楽章 アンダンテ・マ・ウン・ポコ・アジタート
第2楽章 フーガ、アレグロ・モデラート

モーツァルト自身は、第1楽章を完全に完成させています。しかし、第2楽章であるフーガは、残念ながら途中で筆が止まってしまい、断片的な状態でしか残されませんでした。この未完の部分は、後にマクシミリアン・シュタードラー（アダルベルト・シュタードラーの兄としても知られる敬虔な音楽家であり、モーツァルトの死後に彼の遺稿整理にも携わった人物）によって補筆され、演奏可能な形に整えられました。この補筆版を含め、全曲の演奏時間は約6分程度と比較的短い作品です。

音楽的特徴と演奏機会

完成された第1楽章は、アンダンテ・マ・ウン・ポコ・アジタート（やや速く、しかし少し agitated に）という指示が示す通り、穏やかながらも内面に情熱を秘めたような音楽です。特に冒頭で提示される主題は、モーツァルト後期の傑作オペラ『ドン・ジョヴァンニ』の第1幕で演奏される有名なメヌエットの主題と非常によく似ていることが指摘されており、興味深い関連性を示唆しています。

しかし、第2楽章がモーツァルト自身の筆で完成されなかったこともあり、このソナタは他の有名なヴァイオリンソナタに比べて演奏される機会が極めて少ないのが現状です。未完の断片としての価値はもちろんありますが、演奏会などで披露されることはほとんどありません。シュタードラーによる補筆版が存在するものの、オリジナルが未完であるという事実が、この作品の演奏史において特別な位置づけを与えていると言えるでしょう。

この作品は、モーツァルトがもしこのまま完成させていたらどのような傑作になっていただろうか、という想像を掻き立てる、彼の創作過程の一端を示す貴重な資料とも言えます。

（注：本稿は公開されている情報に基づき記述しています。詳細な楽譜情報については、国際楽譜ライブラリープロジェクトなどで参照可能です。）

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