ヴァイオリン協奏曲第1番 (サン＝サーンス)

サン＝サーンス：ヴァイオリン協奏曲第1番 イ長調 作品20

カミーユ・サン＝サーンス（Camille Saint-Saëns, 1835-1921）が作曲したヴァイオリン協奏曲第1番イ長調 作品20は、彼のヴァイオリン協奏曲作品の中では、番号の上では最初とされていますが、実際に書かれたのは1859年あるいは1864年とされ、先行するハ長調の協奏曲（後に第2番作品58として出版）よりも後に完成しました。しかし、第2番の出版が遅れたため、本作が先に世に出ることとなり、作品番号「1番」が付されました。

この協奏曲は1867年に初演され、翌1868年に出版されています。作品は、当時既に名声を確立していたスペイン出身のヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテ（Pablo de Sarasate, 1844-1908）のために作曲され、彼自身によって初演が行われました。サン＝サーンスはサラサーテの卓越した技術と音楽性を高く評価しており、本作を彼に献呈しています。

現在、サン＝サーンスのヴァイオリン協奏曲の中では、第3番ロ短調が最もよく演奏されますが、この第1番はそれに比べると演奏される機会は少ない作品です。しかし、作曲家自身は自身の作品リストの中でも本作を高く評価していたと言われています。

本作は、短い単一楽章形式を採っており、全体の演奏時間は約12分とコンパクトです。このため、全3楽章からなる通常の協奏曲とは異なり、「コンツェルトシュテュック（Konzertstück、演奏会用小品）」と呼ばれることもあります。

楽曲の構成

この作品は、一見単一の楽章として展開されますが、その内部には伝統的な急-緩-急という3つの楽章の要素が統合されています。これはサン＝サーンスが他の多くの作品でも試みた、楽章間の切れ目をなくし、作品全体をより有機的に結びつける構成手法の初期の例の一つであり、特にチェロ協奏曲第1番作品33などに見られる手法の先駆けとなりました。全体の演奏時間は約12分と短く、凝縮された内容を持っています。

具体的な音楽の進行は、大きく分けて以下の三つの部分に相当すると解釈できます。

1. 第1部（アレグロ、ソナタ形式）:
イ長調、4/6拍子で開始されます。まず管弦楽の力強い開始和音に続いて、独奏ヴァイオリンがアルペッジョを含む連続した四重音を奏で、印象的に導入されます。
この部分はソナタ形式の枠組みを持ちつつも、独立した素材やエピソードが自由に挿入されるなど、柔軟な展開を見せます。情熱的な主要主題に続き、第2主題は対照的な嬰ハ短調で提示されます。
展開部はコンパクトにまとめられ、技巧的な短いカデンツァが挿入された後、次の部分へとスムーズに移行します。

2. 第2部（アンダンテ・エスプレッスィヴォ）:
作品の中で緩徐楽章に相当する役割を果たし、テンポはアンダンテに落ち、調性もニ長調、拍子も2/4拍子へと変化します。
管弦楽は弱音器を装着した弦楽器が主体となり、静かで柔らかな響きで独奏ヴァイオリンを伴奏します。
ヴァイオリンはここで、非常に抒情的で歌謡的な美しい旋律を、一貫して表情豊かに奏で続けます。
この部分はAA'のような比較的単純な構成で、落ち着いた雰囲気を醸し出します。

3. 第3部（再現部）:
再びアレグロに近いテンポに戻り、ソナタ形式の再現部に相当する役割を担います。
しかし、通常の再現部とは異なり、ここでは主調であるイ長調ではなく、ニ短調に移調された第2主題から開始されるという特徴的な手法が用いられています。
この再現部では、提示された主題や動機が単に繰り返されるのではなく、音楽的にも、独奏ヴァイオリンの超絶技巧的にも大きく変形され、拡大された形で展開されます。全体のクライマックスに向けて、音楽は再び熱気を帯びていきます。

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