ヴァイキング (ロケット)

ヴァイキング・ロケット

概要

ヴァイキング・ロケットは、第二次世界大戦後にアメリカ海軍研究所（NRL）の監督のもと、グレン・L・マーティン・カンパニー（現在のロッキード・マーティン）によって設計・製造された一連の観測ロケットです。1949年から1955年にかけて、合計12機が打ち上げられました。冷戦初期の多くのロケットが兵器開発を目的としていたのに対し、ヴァイキングは海軍主導ながらも、科学観測用として特化して開発された点が特徴です。

開発の背景

第二次世界大戦後、アメリカはドイツから接収したV2ロケットを「ヘルメス計画」のもとで実験的に運用していました。しかし、V2の在庫が枯渇することを見越して、また科学研究に特化した性能を持つロケットの必要性から、アメリカは独自の大型液体燃料ロケットの開発を決定します。これが当初「ネプチューン」と呼ばれ、後に「ヴァイキング」と改称された計画です。海軍は、高層大気の状態把握や悪天候予測のための実用的なロケットを求めていました。

V2ロケットは本来、1トンもの高性能炸薬を搭載して標的に対して高高度から突入する兵器として設計されていました。しかし、科学観測装置のような比較的軽量なペイロードを運ぶにはV2の能力は過剰であり、飛行安定性を保つために重りを積む必要がありました。これは、観測装置に必要な高度や速度を得る上で非効率であり、科学観測に適した新たなロケットの開発が求められていました。

画期的な設計と技術革新

ヴァイキングは、V2ロケットの設計思想を基にしつつも、多くの点でそれを凌駕する技術革新を取り入れました。V2とほぼ同じ高さでありながら、直径は約半分、重量や推力も半分程度に抑えられました。推進剤にはV2と同様にエタノールと液体酸素を使用し、ターボポンプで供給される単一の燃焼室を備えていました。この燃焼室が生み出す約89 kNの推力は、当時アメリカで最も強力な液体燃料ロケットエンジンでした。

特筆すべきは、現在でも大型ロケットで標準的に用いられているジンバルによる推力偏向制御を初めて実用化したことです。V2がエンジンの排気に突き刺す黒鉛製の偏向板で方向を変えていたのに対し、ヴァイキングではエンジン全体をジンバル（二軸可動機構）で傾けることで、より精密かつ効率的に機体の姿勢を制御できるようになりました。また、主エンジン停止後の微細な姿勢制御には、圧縮ガスを噴射するリアクションコントロールシステム（RCS）を導入しました。これは現代のロケットや宇宙船でも不可欠な技術です。

さらに、構造の軽量化も徹底されました。V2が主に鋼製だったのに対し、ヴァイキングではアルミニウム合金を多用しました。初期のモデルではエタノールタンク、後に液体酸素タンクも機体の外皮と一体化させることで構造重量を削減しました。これにより、改良型（ヴァイキング8号以降）では、満載時重量に対する空虚重量の比率が約5:1という、当時としては画期的な高水準を達成し、より高い高度への到達を可能にしました。

その他、無線テレメトリを積極的に活用し、飛行中の技術データや観測データを地上へリアルタイムに伝送することで、限られた打ち上げ回数で最大限の成果を得ることに貢献しました。

飛行実績と科学的成果

ヴァイキング・ロケットは、ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場から主に打ち上げられました。ヴァイキング4号のみは、ミサイル試験艦USS ノートン・サウンドから赤道付近で打ち上げられ、高度169 kmに到達するというほぼ完璧な飛行を見せました。

初期の飛行ではエンジンの不調などもありましたが、改良が進むにつれて性能は向上しました。ヴァイキング7号はV2の記録を破る219 kmに到達し、原設計ヴァイキングの最高高度記録となりました。設計変更されたヴァイキング9号も同じく219 kmに到達し、改良型の最初の成功となりました。そして、ヴァイキング11号は当時の西側諸国の単段式ロケットとして最高となる254 kmの高度を達成しました。

ヴァイキング計画は、高層大気研究に多大な貢献をしました。ヴァイキング7号では最高高度における大気密度や風の計測、ヴァイキング10号では高高度大気中の陽イオン組成測定、ヴァイキング9, 10, 11号では高高度宇宙線観測が行われました。これにより、海軍研究所は高層大気の温度、気圧、風、電離層の電子密度、さらには太陽からの紫外線スペクトルを世界で初めて測定することに成功しました。

また、ヴァイキング11号は高度160 kmから初めてハリケーンや熱帯嵐を撮影し、広範囲にわたる地表の様子を捉えました。これは、地球が球形であることがわかる、高高度からの鮮明なフルカラー写真としても初期のものでした。

ヴァンガード計画への影響

ヴァイキング・ロケットで得られた知見と技術は、アメリカ海軍研究所が主導した「ヴァンガード計画」へと直接的に繋がりました。ヴァイキングの成功により、その技術を基にしたより強力なロケットに上段を追加することで、人工衛星の打ち上げ能力を獲得できることが確信されたのです。実際に、ヴァンガード計画の初期試験機であるヴァンガードTV0およびTV1は、改良型ヴァイキングに類似した機体を使用して打ち上げられました。

計画の意義

ヴァイキング計画は、国家安全保障の一環という側面もありましたが、軍事目的が主だったV2に対し、純粋な科学観測を主眼に置いた点で、宇宙開発初期における重要な意義を持ちます。ジンバル式推力偏向や姿勢制御噴射装置などの革新的な技術は、その後のロケット開発における標準技術となり、現代宇宙開発の基礎を築きました。高層大気に関する貴重な科学的知見をもたらし、アメリカ初の人工衛星打ち上げ計画であるヴァンガード計画の成功に不可欠な技術的基盤を提供した点で、ヴァイキング・ロケットはアメリカ宇宙開発史における画期的な存在と言えます。

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