ヴァルデマー1世 (デンマーク王)

ヴァルデマー1世クヌーズソン

ヴァルデマー1世（1131年1月14日 - 1182年5月12日）は、12世紀後半のデンマーク王であり、「ヴァルデマー大王」としても知られています。彼の治世はデンマーク王国が最盛期を迎える礎となり、息子ヴァルデマー2世の時代には中世最大の版図を誇るに至りました。

幼少期

ヴァルデマー1世は、シュレースヴィヒ公クヌーズ・レーヴァートを父として生まれました。クヌーズ・レーヴァートは、デンマーク王エーリク1世の息子で、勇敢で人望のある騎士として知られていましたが、ヴァルデマーの誕生から間もなく、スウェーデン王マグヌス1世によって暗殺されました。ヴァルデマーの母インゲボルガ・ムスチスラヴナは、キエフ大公ムスチスラフ1世とスウェーデン王族クリスティーナ・インゲスドッテルの娘であり、ヴァルデマー1世は、祖父にあたるキエフ大公ウラジーミル2世モノマフに因んで名付けられました。

ヴァルデマーは、リングステッド地方に住む家臣アッサー・リーの元で養育されました。アッサーは、ヴァルデマーの父クヌーズ・レーヴァートと共に育ったデーン人貴族であり、Hvide家の一員でした。アッサーは、自身の息子アブサロンとエスバーンと共に、ヴァルデマーを養育し、彼らは兄弟同然に育ち、生涯にわたる親友となりました。

王位をめぐる争い

1146年、ヴァルデマーが15歳の時、エーリク3世がデンマーク王位を退いたことで、後継を巡る争いが勃発しました。ヴァルデマーは、次期国王候補の一人として名乗りを上げました。他にも、エーリク2世の息子スヴェン3世、スウェーデン王マグヌス1世の息子クヌーズ5世も王位を主張し、1146年にはスヴェンとクヌーズがそれぞれ王を名乗る事態となりました。デンマークはその後10年間内戦状態に陥りました。

1154年、ヴァルデマーはクヌーズと同盟を結び、共同統治者としてデンマーク王に即位することが決定しました。1157年7月には、ヴァルデマー、スヴェン、クヌーズの3人が共同統治者となり、デンマーク王国を分割して統治することになりました。しかし、同年8月に開催されたロスキレの血祭りでクヌーズが殺害され、同年9月23日にはグラーテ・ヘーゼの戦いでヴァルデマー軍がスヴェン軍を破り、スヴェンは逃亡中に農民に殺害されたとされています。共同統治者の相次ぐ死により、ヴァルデマーは唯一のデンマーク王となりました。

ヴァルデマーの治世

1158年、ヴァルデマーの盟友アブサロンがロスキレ司教に選出され、ヴァルデマーは彼を筆頭顧問に任命しました。ヴァルデマー王は、相次ぐ戦争で疲弊したデンマーク王国の再建に尽力しました。王国の南部では、ダニーバーク要塞を強化し、アルス・スンド海峡の小島にはSønderborg城を築き、要塞化しました。この小島は、後にアルス島と陸続きになりました。また、ヴァルデマー王は、王国南東部で勢力を増していたヴェンド人に対抗するため、かつてのデーン人ヴァイキングが用いていた戦術を改良した重騎兵による水陸両面戦術を用いました。この戦術は、彼の後継者クヌーズ6世の時代にさらに改良されることとなりました。

ヴァルデマー王は、アブサロンの助言のもと、デンマーク沿岸部を襲撃するヴェンド人に対して宣戦布告しました。当時、ヴェンド人はポメラニア地方やリューゲン島を占拠し、デンマーク軍の約2倍の兵力を擁しており、デンマーク王国の脅威となっていました。そのため、デンマーク軍はヴェンド人の支配地域沿岸部を襲撃し、リューゲン島の奪還を目指して反撃しました。リューゲン島は、その後のデンマーク軍によるヴェンド人支配地域への侵攻作戦の拠点となりました。デンマークの影響力はポメラニア地方やオボトリート族の支配地域にまで及び、これらの地域はデンマーク軍による度重なる襲撃を受けました。

1170年頃、ヴァルデマー王とアブサロン司教が率いる少数のデンマーク艦隊がオーデル川沿いにポメラニアを襲撃した際、ポメラニア公カジミール1世の艦隊の攻撃を受けました。ポメラニア艦隊はオーデル川に架かるジュリン橋付近でデンマーク艦隊を攻撃し、さらなる襲撃を阻止しようと試みましたが、デンマーク艦隊は数倍の兵力を誇るポメラニア艦隊を打ち破りました。この勝利は、デンマーク艦隊に騎馬兵がいたことが大きな要因でした。

1175年、ヴァルデマー王はドイツ沿岸部の防衛と襲撃拠点とするため、Vordingborg Castleを建設しました。

1180年、デンマーク国内で最も裕福な地域であるスコーネ地方で政治不安が広まりました。スコーネの人々は、ヴァルデマー王が派遣したユトランド出身の外国人統治者によるスコーネ支配に反発し、かつてスコーネを支配していたSkåneland出身の貴族を統治者に据えるように要求しました。また、彼らは十分の一税の納付を拒否しました。
ヴァルデマー王はスコーネの人々の要求を拒否しましたが、民衆の反発はさらに強まり、国王や教会への納税を拒否しました。スコーネ討伐に乗り出したヴァルデマー王ですが、反乱軍の規模があまりにも大きかったため、自軍の兵力だけでは対処できず、ヴレーキンゲ地域からの援軍を要請しました。ヴァルデマー軍と反乱軍はスコーネ地方西部で激突し、ヴァルデマー軍は数で勝る反乱軍を打ち破りました（ディシアの戦い）。戦後、農民反乱軍は降伏しましたが、十分の一税の支払いを拒否し続けました。そのため、ヴァルデマー王は税としての支払いではなく、教会への寄付という形で財を送るよう促しました。

しかし、ヴァルデマー王はスコーネ地方の統治者に関しては譲歩し、スコーネ出身の貴族を新たな支配者に任命しました。このスコーネ地方への譲歩政策は、デンマーク王国内の他の地域にも適用され、後にデンマーク王国で制度化されることとなりました。この支配体制は、カルマル同盟においても用いられました。

家族

ヴァルデマー王は、スウェーデン女王リクサ・ボレスワヴヴナの娘で、デンマーク王クヌーズ4世の義妹でもあるソフィヤ・ウラジミロヴナと結婚しました。

ソフィア (1159年 - 1208年)
ヴァイマル＝オーラミュンデ伯シーグフリード3世と結婚
クヌーズ6世 (1163年 - 1202年)
マリア (1165年頃 - )
1188年にロスキレで修道女となる
マルガレータ (1167年頃 - 1205年)
1188年にロスキレで修道女となる
ヴァルデマー2世 (1170年 - 1241年)
インゲボルグ (1174年 - 1237年)
フランス王フィリップ2世と結婚し、フランス王妃となる
ヘレネ (1176年頃 - 1233年)
リキサ (1178年頃 - 1220年)
スウェーデン王エリク・クヌートソンと結婚し、スウェーデン女王となる
Walburgis (1177年頃没)
ポメラニア公ボギスラフ1世と結婚

ヴァルデマー1世の死後、ソフィアはテューリンゲン方伯ルートヴィヒ3世と再婚しました。

脚注

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、ヴァルデマー1世 (デンマーク王)に関するカテゴリがあります。
ヴァルデマー1世 - Find a Grave（英語）
Valdemar den Store Kings of Denmark, DK
* [Bain, Robert Nisbet (1911). "Valdemar I.". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 27 (11th ed.). pp. 840–841.] (https://en.wikisource.org/wiki/1911_Encyclop%C3%A6dia_Britannica/Valdemar_I)

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