ヴァレンティン・シルヴェストロフ

ヴァレンティン・ヴァシリョヴィチ・シルヴェストロフは、1937年9月30日にウクライナのキエフで生まれた、現代音楽の作曲家です。彼はドイツ系の技師と教師の家庭に育ち、幼い頃から音楽に深い関心を持っていました。

音楽学校を卒業後、15歳から作曲を始めましたが、一旦はキエフ建築技術大学に進学します。しかし、3年後に退学し、キエフ音楽院で本格的に作曲を学び始めました。ボリス・リャトシンスキーに師事し、1964年に卒業。1960年代には、キエフ・アバンギャルドの一員として、反体制的な文化活動にも携わりました。

シルヴェストロフは、アルフレート・シュニトケ、アルヴォ・ペルト、ソフィヤ・グバイドゥーリナといった旧ソ連の同世代の作曲家たちの中でも、特に優れた才能を持つと評価されています。初期は前衛的な作風で注目を集め、ブルーノ・マデルナからも絶賛されました。しかし、1970年代以降、彼は過去を回顧する作風へと転向します。

転向後のシルヴェストロフの作品は、伝統的な調性や旋法を用いながらも、劇的な響きと繊細な感情表現が特徴です。彼の音楽は、過去の音楽への反応であり、反響であると彼は語っています。ソ連作曲家同盟から除名された後、彼は西側へ作品を売り込み始めました。特に、《交響曲第5番》は彼の傑作として広く知られ、グスタフ・マーラーのような後期ロマン派音楽の延長線上にあると評されています。

シルヴェストロフの作品は、8つの交響曲、ピアノと管弦楽のための詩曲、オーケストラ曲、弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲、ピアノ・ソナタ、ピアノ曲、カンタータ、歌曲など多岐にわたります。前衛音楽の停滞後、新ロマン主義が流行した時代にも、彼は望郷や回顧といった感情を、機能和声の中で表現することに成功しました。ピアノソナタ第二番では、ゆっくりとしたテンポの中で、聴き覚えのある伴奏音型をペダルでぼかすことで、聴き手の記憶を揺さぶるような仕掛けが施されています。この手法は、前衛時代の作風とは全く異なり、同一人物の作品と認識するのが難しいほどです。

転向後の作品は、演奏や録音の機会に恵まれ、ECMレーベルから集中的にリリースされました。これは、初期に前衛的な作風で注目を集め、後に大衆的な支持を得たヘンリク・グレツキの成功と似ています。

主要作品には、ピアノ曲《ソナチネ》、弦楽四重奏のための「小四重奏曲」、交響曲第1番、アルトフルートと6つの打楽器のための「神秘劇」、室内オーケストラのための「スペクトル」、ピアノと管弦楽のための「モノディア」、フルートとティンパニ、ピアノ、弦楽合奏のための「交響曲第2番」、交響曲第3番「終末の響き」、管弦楽のための詩曲「ボリス・リャトシンスキーを偲んで」、ピアノ三重奏のための「ドラマ」、チェロとピアノのための「瞑想曲」、弦楽四重奏曲第1番、連作歌曲集「静寂の歌」、吹奏楽と弦楽合奏のための「交響曲第4番」、ピアノのための小品集「キッチュな音楽」、ソプラノホルンとピアノのための「森の音楽」、無伴奏ヴァイオリンのための「後奏曲」、チェロとピアノのための「後奏曲」、交響曲第5番、カンタータ「夜鳴き鶯を讃えて」、ピアノと管弦楽のための「後奏曲」、弦楽四重奏曲第2番、交響曲「献呈」、交響詩「超音楽」、交響曲第6番、「使者」、「墓碑銘」、「秋のセレナーデ」、死者のためのミサ曲「Requiem」、讃歌、交響曲第7番、ピアノのためのバガテル、ウクライナへの祈りなどがあります。

シルヴェストロフの音楽は、過去の音楽遺産と現代的な感性が融合した、独自の世界観を創り出しています。彼の作品は、聴く者の心に深く響き、音楽の持つ普遍的な力を感じさせてくれます。

もう一度検索