ヴァーシャーリ・タマーシュ

ヴァーシャーリ・タマーシュ（Vásáry Tamás）は、1933年8月11日にこの世に生を受けた、ハンガリー出身の音楽家です。現在はスイスの国籍を保持しており、国際的に活躍するピアニストそして指揮者として広く認知されています。

彼の音楽的なキャリアは、ハンガリーの首都ブダペストにある高名なリスト音楽アカデミーで始まりました。ここでは、エルンスト・フォン・ドホナーニをはじめとする優れた指導者たちの下で研鑽を積みました。その後、母校において作曲家として知られるコダーイ・ゾルターンのアシスタントとして務める機会を得ました。この師弟関係は深く、コダーイからは特別にスタインウェイのグランドピアノを贈られるというエピソードも残されています。

若きヴァーシャーリは、1948年にブダペストで開催されたリスト国際コンクールで輝かしい優勝を飾ります。これは彼の才能を広く知らしめる大きな一歩となりました。しかし、1956年のハンガリー動乱を経て、彼は母国を離れる決断をします。スイスに新天地を求め、そこに居を定めた後、1960年と1961年には、ロンドン、パリ、ウィーンといった西欧の主要都市で本格的な演奏活動を開始し、国際的な舞台での地歩を固めました。その後、彼は活動の拠点としてロンドンに定着することになります。

ピアニストとしてのヴァーシャーリは、特にロマン派音楽の解釈で高い評価を得ています。ドイツ・グラモフォン・レーベルからは、彼の演奏による数多くの録音が発表されており、その中でもフレデリック・ショパンやフランツ・リストといった作曲家の作品集は、彼の代表的な録音としてよく知られています。また、ユーリ・アーロノヴィチ指揮によるラフマニノフのピアノ協奏曲全集も、その豊かな音楽表現で多くのファンに親しまれています。

近年では、彼は指揮者としての活動にも重心を置いています。イギリスのノーザン・シンフォニアの音楽監督や、ボーンマス・シンフォニエッタの首席指揮者といった重要なポストに就き、オーケストラを率いる才能も発揮しています。これらの役職に加えて、イギリス国内やアメリカ合衆国の主要なオーケストラとも、ピアニストとしてだけでなく、指揮者としても頻繁に共演し、その活動の幅を広げています。

さらに、彼は故郷ハンガリーへの特別な思いを抱いており、度々母国へ戻って演奏活動を行っています。特に、ブダペスト交響楽団と共に取り組んだベートーヴェンおよびシューベルトの交響曲全曲録音プロジェクトは、大きな注目を集めました。この録音の中で、ベートーヴェンの交響曲第7番のフィナーレでは、正味6分という極めて速いテンポを選択し、そのスピーディーな演奏は史上最速の記録の一つとして語り草となっています。

ヴァーシャーリ・タマーシュは、その類まれな音楽性と多才さをもって、ピアニスト、そして指揮者として世界の音楽シーンに貢献し続けています。彼の音楽は、過去から現在に至るまで、多くの聴衆に感動を与えています。

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