ヴィクター・ロスチャイルド (第3代ロスチャイルド男爵)

ナサニエル・メイヤー・ヴィクター・ロスチャイルド：多才な貴族の生涯

ナサニエル・メイヤー・ヴィクター・ロスチャイルド（1910年10月31日 - 1990年3月20日）は、第3代ロスチャイルド男爵として、イギリス社会に大きな足跡を残しました。彼は貴族、銀行家、政治家、そして陸軍軍人という多様な顔を持ち、その生涯は波瀾万丈でした。

生い立ちと教育

初代ロスチャイルド男爵の血を引くナサニエルは、ハーロー校を経てケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに進学。大学では秘密結社「ケンブリッジの使徒」に参加し、穏健な左翼思想を育みました。この頃、ソ連のスパイとして知られるガイ・バージェスらと交流があったことも、彼の人生に影を落とすことになります。

ロスチャイルド家の当主として

1937年、伯父の死去に伴い第3代ロスチャイルド男爵を継承。貴族院議員としても活動を開始します。ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害に対しては、人道的な立場から積極的に救済活動を展開。「ドイツユダヤ人のための英国中央基金」などを設立し、亡命を支援しました。教皇ピウス11世にナチスへの抗議を求める手紙を送るなど、その行動は一族の中でも際立っていました。

軍人、そして諜報の世界へ

第二次世界大戦ではイギリス陸軍に入隊。MI5の爆発物対策部部長として、ドイツ軍のサボタージュ工作に対抗しました。その功績により、ジョージ・メダルやアメリカ軍のブロンズ・スター・メダルを受章。ウィンストン・チャーチルの護衛隊員にも選ばれるなど、軍人としての能力も高く評価されました。

戦後は、対外諜報機関との連携を深め、私的諜報機関を設立したとも言われています。中東戦争や中国国共内戦の情勢分析、イスラエルの諜報機関モサドの育成に関与したなどの噂も存在しますが、その真偽は定かではありません。

金融業の近代化と政治への関与

戦中から戦後にかけて、ロスチャイルド家の金融業は近代化を迎えました。持株会社ロスチャイルド・コンティニュエーション・ホールディングスが設立され、N・M・ロスチャイルド&サンズが株式会社化されます。しかし、ヴィクター自身は銀行業よりも諜報や政治に関心を抱き、経営権は分家へ委ねることとなりました。

1970年代には、エドワード・ヒース内閣の政策提言委員会の委員長に就任。科学技術と産業の橋渡し、人種問題、核問題など、イギリスの社会問題に積極的に取り組みました。

スパイ疑惑と晩年

晩年は、「ソ連のスパイ」という疑惑に悩まされましたが、マーガレット・サッチャー首相が声明を出すなど、疑惑は否定されました。ケンブリッジ大学の生物学者として受胎や精子の研究にも従事し、著作も残しています。また、初版本の蒐集家としても知られ、多くの蔵書をケンブリッジ大学に寄贈しました。

多様な栄誉と家族

ロスチャイルド男爵位、準男爵位に加え、ジョージ・メダル、大英帝国勲章ナイト・グランド・クロスなど、数々の栄誉に輝きました。ケンブリッジ大学をはじめとする各大学から名誉博士号を授与されています。2度の結婚で7人の子供をもうけ、それぞれが社会で活躍しています。

ナサニエル・メイヤー・ヴィクター・ロスチャイルドは、ロスチャイルド家の伝統を受け継ぎながらも、独自の道を切り開いた人物でした。金融、政治、軍事、科学と、多岐にわたる分野でその才能を発揮し、20世紀のイギリス社会に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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