ヴィクター・ロー

ヴィクター・ロー：立教大学校の礎を築いた宣教師、医師、教育者

ヴィクター・ロー（1853年-1900年）は、明治時代の日本において重要な役割を果たしたアメリカ人です。米国聖公会から派遣された宣教師として来日し、教育者、そして医師としての顔も持ち合わせていました。イリノイ州生まれの彼は、シカゴのハーネマン医学校を卒業後、ホメオパシー医療の医師として活動し、その後聖公会から按手礼を受けて宣教師に任命されました。

1888年、ローは日本へ渡来します。彼の来日は、前年に仙台の第二高等中学校へ移った宣教医師の後任としてでした。しかし、日本では医師としての活動は行わず、教育に比重を置いた生涯を送ることになります。

ローがその才能を遺憾なく発揮した舞台は、立教大学校（現在の立教大学）でした。同校は、1883年に東京・築地に設立された、アメリカ合衆国式の大学の先駆けと言える存在です。中世ヨーロッパのリベラルアーツの伝統を受け継ぎ、ほぼ英語の原書を用いた高度な教育が行われていました。

ローは立教大学校において理化学教授を務めました。当時の立教大学校のカリキュラムは、人文・社会科学に加え、自然科学も重視されており、数学、物理学、化学、生物学、地学など幅広い自然科学科目が英語の教科書を用いて教授されていました。ローは、こうした自然科学教育を支える重要な役割を担ったのです。他の教員には、札幌農学校で活躍した工藤精一や阪本安則といった著名な数学者も含まれていました。

ローは教育活動のみならず、立教大学校の運営にも深く関与していました。校長であるジェームズ・ガーディナーの下、貫元介、モリスと共に学校運営の中枢を担い、自身は書記として学校事務を処理しました。1887年には、大阪の英和学舎と立教大学校が合併するという大きな変化も経験しています。

しかし、立教大学校を取り巻く状況は容易ではありませんでした。欧化主義への反動から台頭した国粋主義によるキリスト教への圧力、日本の教育制度改革など、様々な困難に直面したのです。1890年には、日本の教育制度への対応として、学校名は「立教学校」に変更されました。この改革には、それまで学校事務を担っていたローとモリスが、学校運営に不慣れだったことや、中心人物であったウィリアムズの主教退任なども影響を与えていたと考えられます。

健康上の問題を抱えたローは、1890年に帰国しました。短い在日期間でしたが、ローは立教大学校の発展に大きく貢献し、その礎を築いた一人と言えるでしょう。彼の活動は、日本の近代化におけるキリスト教の影響、そして教育の西洋化という大きな流れの中で重要な位置を占めています。ローの生涯は、文化交流の歴史、教育史、そしてキリスト教伝播の歴史において重要な一頁を刻んでいるのです。彼の貢献は、現在の立教大学にも受け継がれ、今もなおその精神は息づいていると言えるでしょう。

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