欧化主義

欧化主義とは

欧化主義とは、一般的に、自国の近代化を推し進めるために、ヨーロッパの様々な制度や文化を積極的に取り入れようとする思想潮流のことを指します。これは単なる文化的な変革にとどまらず、社会構造や政治体制にまで影響を及ぼす、広範囲な変革運動を意味します。

日本における欧化主義

日本では、明治時代に欧化主義が顕著に現れました。特に1880年代には、明治政府が主導する形で欧化政策が推進されました。この政策の背景には、欧米列強との間で締結されていた不平等条約の改正を実現するという重要な外交目標が存在していました。

当時の政府は、日本が国際社会において「文明国」として認められるためには、文化、制度、風俗、習慣など、あらゆる面でヨーロッパ風に近代化する必要があると考えました。この考えに基づいて、鹿鳴館が建設され、華やかな夜会が開催されたり、官庁集中計画のような大規模な都市計画が立案されたりしました。また、学術、文化の面でも、ローマ字会や演劇改良会が設立され、言文一致運動が起こるなど、積極的な欧化の動きが見られました。

欧化政策の具体例

鹿鳴館：1883年に完成した鹿鳴館は、欧化政策の象徴的な存在でした。外務卿（後の外務大臣）井上馨が中心となり、華族や政府高官、外交団を招いて連日夜会が催されました。
官庁集中計画：日比谷には、プロシア風の大規模な官庁街を建設する計画がありました。これは、日本の首都をヨーロッパの都市のように近代化することを目指したものでした。
文化・学術面での改革：矢田部良吉や外山正一による「羅馬字会」、渋沢栄一や森有礼による「演劇改良会」の設立、学会の創設など、文化や学術の分野でも欧化の動きが活発でした。また、山田美妙らによる言文一致運動もこの時期に起こりました。

欧化主義への反発と国粋主義の台頭

しかし、欧化政策は国内で大きな反発を招きました。自由民権運動の弾圧や松方財政によるデフレーションという厳しい社会情勢の中で、欧化政策は「貴族主義的」あるいは「上からの欧化」と批判されました。自由民権派は鹿鳴館を税金の無駄遣いと非難し、民友社の徳富蘇峰らは「貴族的欧化主義」を批判し、「下からの欧化」を主張しました。

また、宮中の保守派や政教社の三宅雪嶺らを中心とする国粋主義者も、外国人裁判官の起用といった条約改正交渉に対する批判を強め、政府を攻撃しました。さらに、久宮静子内親王の薨去直後に仮装舞踏会が開催されたという風説や、政府高官による婦女暴行の噂が広まり、政府への批判は一層強まりました。これは内閣総理大臣伊藤博文に対する根拠のない政治的な中傷でしたが、保守派や民権派はこれを伊藤内閣攻撃の材料として利用しました。この危機的な状況は「明治20年の危機」とも呼ばれています。

こうした事態を受けて、伊藤博文は谷干城と井上馨を更迭し、大隈重信と黒田清隆を入閣させ、事態の収拾を図りました。しかし、大隈重信が外務大臣として条約改正に失敗すると、欧化主義は衰退し、対外硬派に支えられた国粋主義が台頭しました。

もっとも、この時期にはすでに大日本帝国[[憲法]]が制定されており、見かけだけの「欧化」に依存しなくても、日本の国際社会における地位は少しずつ上昇に向かっていました。

ロシアにおける欧化主義

ロシアでも、ピョートル1世が欧化政策を推進したことで知られています。ただし、ピョートル1世の目的は、単なるヨーロッパ化ではなく、ロシアの近代化でした。しかし、その政策は、顎ひげをヨーロッパ風に整えることや、フランス風・ドイツ風の服装を強制するなど、一部で極端な側面がありました。

まとめ

欧化主義は、近代化を目指す上で不可欠な思想潮流であり、日本やロシアなど、多くの国でその影響が見られました。しかし、その推進過程においては、国内の反発や文化的な衝突も引き起こしました。欧化主義の歴史は、文化変革がもたらす複雑な側面を示しています。

参考資料

坂本一登『伊藤博文と明治国家形成―「宮中」の制度化と立憲制の導入―』（吉川弘文館、1991年）

関連項目

文明開化
条約改正
鹿鳴館
洋装化
脱亜論
脱亜入欧
国際博覧会
白人コンプレックス
* 出羽守 (俗語)|出羽守_(俗語)

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