ヴィクトル・アルクスニス

ヴィクトル・アルクスニス：激動の時代を生きた「黒い大佐」

ヴィクトル・アルクスニス（Viktor Alksnis、1950年6月21日 - 2025年1月1日）は、ソビエト連邦の軍人であり、政治家でした。ソ連空軍大佐の地位にあり、ラトビア系のロシア人でした。彼はソ連末期に、ミハイル・ゴルバチョフのペレストロイカ政策を保守的な立場から強く批判し、「黒い大佐」として知られるようになりました。

家系と生い立ち

アルクスニスは、ケメロヴォ州タシュタゴールで生まれました。彼の祖父ヤーコフ・アルクスニスは、1930年代にソ連空軍の将軍であり、最高会議代議員を務めた人物です。しかし、ヤーコフはスターリンの大粛清の際にミハイル・トハチェフスキー元帥の死刑判決に関与した後、自身も1938年に逮捕され銃殺されました。祖父の未亡人も強制収容所で18年間を過ごすこととなり、父イワンは「人民の敵」の子として扱われました。ヤーコフ・アルクスニスの名誉が回復されたのは1957年のことです。

軍人から政治家へ

1973年、アルクスニスは祖父の名を冠したヤーコフ・アルクスニス名称リガ陸軍航空上級工学学校を卒業しました。彼は通信分野を専門とし、ソ連空軍の技術将校として大佐まで昇進しました。1989年には、ラトビア共和国のリガからソ連人民代議員に選出されました。彼の当選は、ラトビア国内のロシア系住民を中心とする独立反対派の支持によるものでした。1990年にはラトビア最高会議代議員にも選出されています。

アルクスニスは保守派の論客として頭角を現し、1990年にはソ連人民代議員大会の院内会派「ソユーズ」（連邦、同盟の意味）を組織し、指導者の一人となりました。「ソユーズ」を通じて、彼は連邦の維持、バルト三国のロシア人権益の保護を主張する一方で、内戦の可能性やソ連軍による権力掌握を示唆しました。1990年2月時点で「ソユーズ」は軍人代議員を中心に561名の代議員を擁し、別の保守系会派「共産主義者」730名と合わせると、ゴルバチョフを中心とする中間派や改革派にとって大きな脅威となりました。アルクスニスらの活動は、ワジム・バカーチン内相やエドゥアルド・シェワルナゼ外相の辞任を招く一因となりました。

1990年12月には「国家救済委員会」を組織し、ゴルバチョフ大統領に対し、ソ連全土への非常事態宣言の発令、全政党の活動停止、独立を求める連邦構成共和国への実力行使を要求しました。アルクスニスは後に、自身のブログで内務省（MVD）の特殊部隊「OMON」を後ろ盾としていたことを明かし、リトアニアにおけるOMONによる武力弾圧にも関与していたことをほのめかしています。

ソ連崩壊とその後

アルクスニスは「ソユーズ」のスポークスマンとして人民代議員大会で活躍しましたが、ゴルバチョフが政策決定の場を議会から大統領府、安全保障会議に移したため、彼の言動は次第に影響力を失っていきました。また、保守派の中核が後のソ連8月クーデターの中心人物であるアナトリー・ルキヤノフに移行したことも、その勢いを弱める要因となりました。1991年、ゴルバチョフは再び改革派に接近し、8月に保守派がクーデターを起こしましたが失敗に終わり、ソ連は崩壊しました。

1992年、アルクスニスは国家救済戦線を結成し副議長に就任しました。同年、彼は出身地であるラトビアからペルソナ・ノン・グラータ（好ましからざる人物）に指定されました。2005年には、ロシア・ウクライナ間の国境問題に関するクリミア半島での活動が原因で、ウクライナ政府からも同様の措置を受けました。1999年にはロシア連邦議会下院国家会議議員に当選し、祖国（ロージナ）会派に所属しました。

フリーソフトウェアの推進

アルクスニスは、ロシア国内でのLinuxのようなフリーソフトウェアの使用促進を主張しました。オペレーティング・システム開発においては、ReactOSプロジェクト・コーディネータのアレクセイ・ブラーギンと協力しました。また、2008年にはフリーソフトウェア財団の創設者リチャード・ストールマンをモスクワに招聘しています。

晩年と逝去

アルクスニスは2019年に癌と診断され、数回の手術を受けました。2024年12月30日に出血性脳卒中で病院に搬送され昏睡状態となり、3日後の2025年1月1日に亡くなりました。彼の娘で政治アナリストのイリーナ・アルクニクスが、父の死を報告しました。享年74歳でした。

ヴィクトル・アルクスニスは、激動の時代を駆け抜けた政治家であり、ソ連崩壊という歴史的な出来事の中で重要な役割を果たした人物です。彼の生涯は、ソ連末期の政治状況、そしてその後のロシアの動向を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

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