ヴィクトル・ドゥルラン

ヴィクトル＝シャルル＝ポール・ドゥルラン（Victor-Charles-Paul Dourlen, 1780年 11月3日 - 1864年 1月8日）は、19世紀フランスで活動した作曲家であり、高名な音楽教育者です。彼の生涯は、権威あるローマ大賞の受賞、パリ音楽院での長きにわたる教授職、そして後世に影響を与えた音楽理論書の執筆という、多岐にわたる活動によって彩られています。

生涯

ドゥルランは、北フランスの港湾都市ダンケルクに生を受けました。音楽の道を目指し、1799年、19歳の時にパリ音楽院の門を叩きます。そこで彼は、当時の著名な作曲家であるゴセックやボイエルデューといった優れた師事者に恵まれ、作曲の基礎を深く学びました。

音楽院での研鑽を積んだ後、彼は教育者としてのキャリアを早期にスタートさせます。1800年には初等歌唱の講師に就任し、後進の指導にあたりました。そして1805年、彼の才能は大きく花開きます。師たちの強い推挙を受けて参加した権威あるローマ大賞において、カンタータ『Cupidon pleurant Psyché（プシュケを悼むキューピッド）』で見事に作曲部門の1等賞を獲得したのです。

ローマ大賞受賞者としての特典として、ドゥルランはイタリアへの留学機会を得ました。帰国後、彼は作曲活動にも力を注ぎ始め、『Philoclès』や『Limnoe』といったオペラ作品を複数手掛け、舞台作品の作曲家としても名を連ねました。しかし、彼の主な活動舞台は教育の場へと移っていきます。

1816年、ドゥルランは母校であるパリ音楽院の教授に任命されました。彼はここで和声学と作曲を教え、その卓越した指導力によって多くの学生を育成しました。この教授職を彼は1842年まで、実に26年間という長きにわたり務め上げました。彼の教えを受けた門下生の中には、後に著名な音楽家として活躍する人物が多数います。例えば、オペラ『ミニョン』で知られるアンブロワーズ・トマ、師フランソワ・ボイエルデューの息子、作曲家フランソワ・バザン、ピアニストのアンリ・エルツ、アントワーヌ・マルモンテル、フェリクス・ル・クーペ、アレクサンドル・ゴリア、ルイ・デジール・ベゾッツィなどがドゥルランの薫陶を受けています。彼の教育者としての貢献は、当時のフランス音楽界に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

音楽理論家として

ドゥルランは、作曲家や教育者としてだけでなく、音楽理論家としても重要な業績を残しました。彼は特に、同時代の著名な理論家シャルル・シモン・カテルの確立した方法論に基づいた和声学に関する論文を数多く執筆しています。これらの理論書は、彼の教育活動の基盤となったと同時に、後世の研究者や学生たちにとっても貴重な資料となりました。

彼の代表的な音楽理論書としては、以下の著作が挙げられます。

『Méthode élémentaire pour le piano-forte』（初等ピアノ教本、1820年）
『Tractat d'acompanyament pràctic』（実用伴奏論、1834年）
* 『Tractat d'harmonia』（和声論、1838年）

これらの著作は、当時のフランスにおける和声理論や演奏法を理解する上で重要な文献とされており、現在でも参考文献として広く参照され続けています。

作品

作曲家としてのドゥルランは、様々なジャンルで作品を遺しています。彼の作品リストには、当時のパリの聴衆に親しまれた9曲のコミック・オペラがあります。また、器楽作品としては、オーケストラとピアノのための協奏曲が1曲、ピアノ、ヴァイオリン、チェロによるピアノ三重奏曲が1曲残されています。さらに、ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、フルートソナタといった独奏や重奏のためのソナタ作品も手掛けています。

ヴィクトル・ドゥルランは、華やかな舞台作品から精緻な器楽作品、そして後世に指針を示した理論書に至るまで、幅広い分野で才能を発揮しました。特に教育者・理論家としての貢献は大きく、19世紀フランス音楽界の発展において重要な役割を果たした人物と言えるでしょう。

外部へのリンク: ヴィクトル・ドゥルランの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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