ヴィスタム

ヴィスタム：サーサーン朝の反逆者

ヴィスタム（ビスタムとも）は、6世紀後半から7世紀初頭にかけてのサーサーン朝における有力な貴族であり、王位簒奪者でした。アスパーフバド家の出身で、ホスロー2世の母方の叔父にあたります。彼は当初、ホスロー2世の王位奪還に協力しましたが、後に自らも王を称して反乱を起こしました。

生い立ちと初期の経歴

ヴィスタムは、アスパーフバド家のシャープールの息子として生まれました。アスパーフバド家は、サーサーン朝の七大貴族の一つであり、王家との繋がりも深く、特に南西部の統治において重要な地位を占めていました。ヴィスタムの妹はホルミズド4世と結婚し、後の王であるホスロー2世を産んでいます。

しかし、アスパーフバド家は、ホルミズド4世の治世末期に他の貴族たちと共に迫害を受けました。ヴィスタムの父シャープールも殺害され、ヴィスタムが家長となりました。ホルミズド4世の迫害は、590年に将軍バフラーム・チョービンの反乱を引き起こしました。バフラーム・チョービンの勢いが拡大する中で、ホルミズド4世はヴィスタム兄弟を排除しようとしましたが、ホスロー2世がこれを制止しようとしました。ヴィスタムは宮廷から脱出し、兄弟と共に宮廷クーデターを起こし、ホルミズド4世を退位させ、盲目にして殺害し、ホスロー2世を王位につけました。

しかし、バフラーム・チョービンの進軍を止めることはできず、ホスロー2世とヴィスタム兄弟はアゼルバイジャンに逃れました。ヴィスタムは軍を集めるために残り、ヴィンドイはホスロー2世を護衛し、ビザンツ帝国の支援を求めました。591年、ホスロー2世はビザンツ帝国の軍事支援を得て帰還し、ヴィスタムが編成した軍と合流し、バフラーム・チョービンを破り、王位を奪還しました。

反乱と最期

王位奪還後、ホスロー2世はヴィスタム兄弟に高い地位を与えましたが、すぐに彼らを危険視し始めました。ヴィンドイは処刑され、ヴィスタムは東部地域の軍司令官に任命されましたが、やがて処刑されることを恐れて反乱を起こしました。ヴィスタムは、自らがパルティア王の後裔であることを主張し、ホスロー2世の王位を否定しました。

ヴィスタムの反乱は、バフラーム・チョービンの反乱と同様に、多くの支持者を集めました。彼はサーサーン朝側の攻撃を何度も退け、イランの東部と北部を支配下に置きました。彼の支配領域はオクサス川からアルダビールまで広がりました。

ヴィスタムがメディアを脅かすようになると、ホスロー2世は軍を派遣しましたが、決定的な勝利を得られませんでした。最終的に、ホスロー2世はアルメニアのスムバト4世に協力を要請し、スムバト4世はクーミス近郊でヴィスタムを捕捉しました。戦いの中、ヴィスタムはホスロー2世の差し金によって、自身の妻（または別の史料では愛人）によって暗殺されました。スムバト4世は翌年も遠征を行い、ようやく反乱を鎮圧しました。

死後の影響

ヴィスタムの反乱は鎮圧されましたが、アスパーフバド家の勢力は依然として強く、サーサーン朝の政治に影響を与え続けました。ヴィスタムの息子たちは、後の時代にも軍の司令官として活躍しています。イランのバスタムの町や、ターク・イ・ブスタンの記念碑的な場所は、ヴィスタムにちなんで名付けられた可能性があります。

ヴィスタムの生涯は、サーサーン朝末期の政治的混乱と貴族たちの権力争いを象徴しています。彼の反乱は、サーサーン朝の衰退を加速させる一因となりました。

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