ヴィッカース QF 2ポンド砲

ヴィッカース QF 2ポンド・ポンポン砲：イギリス海軍の多用途機関砲

ヴィッカース QF 2ポンド・ポンポン砲は、20世紀前半のイギリス海軍において重要な役割を果たした機関砲です。その愛称である「ポンポン砲」は、独特の射撃音に由来します。本砲は、先行するQF 1ポンド砲やQF 1.5ポンド砲を改良・発展させたもので、対空戦闘において大きな役割を果たしました。

Mk.IおよびMk.II：初期型と対空砲への転換

Mk.IとMk.IIは、それぞれ1889年（陸軍）と1892年（海軍）に制式採用されました。Mk.IIは特に大量生産され、第二次世界大戦開戦時にも多数が現役で運用されていました。ショートリコイル方式を採用し、水冷ジャケットを備えた砲身は、榴弾を含む様々な砲弾を使用可能でした。装弾は35発入りの布ベルトで行われました。当初は歩兵砲として開発されましたが、航空機の脅威が増大した第一次世界大戦期には、対空兵器として運用されるようになりました。このニーズに対応して、Mk.IIをHA Mk.IIという旋回式ペデスタル銃架に搭載した高射砲モデルも開発され、1915年から運用が開始されました。HA Mk.II銃架は手動操作で、最大+80度から-5度までの俯仰が可能でした。

Mk.III：潜水艦搭載モデル

Mk.IIIは、潜水艦搭載用の小口径高射砲として開発されました。砲身はMk.I/IIよりもわずかに短縮されています。後に潜水艦から撤去されたMk.IIIは、発動艇などに転用されました。

Mk.VIII：多連装化と技術的課題

第一次世界大戦後、航空機の脅威の高まりを受け、より強力な対空火力を求める声が高まりました。その結果、多連装化された2ポンド・ポンポン砲の開発が推進されました。1920年代には、6連装、8連装の銃架が開発され、搭載艦に配備されました。特に8連装銃架(当初はM銃架と呼ばれ、後にMk.V、Mk.VIと改称)は、「ピアノガン」または「シカゴピアノ」というニックネームで呼ばれるほど独特の射撃機構を持っていました。上下に配置された砲身はクランク装置によって同期し、交互に射撃することで連続的な弾幕を形成していました。後に、クランク装置を取り除いた自動射撃モデル(Mk.VA、Mk.VIA)も開発されました。さらに、遠隔操作装置(RPC)の導入も試みられました。

しかし、2ポンド・ポンポン砲には、初速の低さが課題として残っていました。この問題に対処するため、弾頭を軽量化し初速を高めた高初速モデルも開発されましたが、弾薬の互換性がないため、運用面での混乱も引き起こしました。信頼性の問題も指摘されており、実際に戦闘においては故障や射撃不能に陥るケースも発生しています。

多連装化の他に、4連装銃架(Mk.VII)も開発され、こちらも高初速モデルや遠隔操作装置を搭載したバージョンが運用されました。

射撃管制と後継兵器

第二次世界大戦初期には、多連装2ポンド・ポンポン砲ごとに機銃射撃指揮装置を配備する計画がありましたが、実際には視覚的な照準が主でした。レーダーなどの技術的導入は進められましたが、特に急降下爆撃機に対する効果は限定的でした。

その後、より高性能なヘイズメイヤー社製の40mm連装機銃が導入されるようになり、2ポンド・ポンポン砲は徐々にその地位を譲っていきました。しかし、単装型の2ポンド・ポンポン砲は、比較的容易な搭載性から、大戦末期まで使用され続けました。

日本海軍での採用

本砲は日本海軍でもライセンス生産され、「毘式四十粍機銃」として艦載されましたが、同様の信頼性問題に悩まされたことから、他の機銃への置き換えが進められました。

まとめ

ヴィッカース QF 2ポンド・ポンポン砲は、開発から運用、そして後継兵器への移行まで、技術的課題や運用上の問題を抱えながらも、イギリス海軍の対空防衛に貢献した機関砲でした。その歴史は、兵器開発における技術革新と、運用上の制約との複雑な関係を物語っています。

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