ヴィック・ファース

エヴァレット・ジョセフ・"ヴィック"・ファース

エヴァレット・ジョセフ・"ヴィック"・ファース（Everett Joseph "Vic" Firth、1930年6月2日 - 2015年7月26日）は、アメリカの著名な音楽家であり、ドラムスティックおよびマレット製造会社ヴィックファース（Vic Firth Company）の創業者です。

生い立ちと音楽への目覚め

1930年、マサチューセッツ州ウィンチェスターで生まれたファースは、幼少期をメイン州サンフォードで過ごしました。音楽家の父の影響を受け、4歳からコルネットを始め、その後、パーカッション、トロンボーン、クラリネット、ピアノ、編曲など、幅広い音楽の才能を開花させました。高校時代にはプロのパーカッショニストとして活動し、16歳で18人編成の楽団を率いるなど、早くからその才能を発揮しました。彼はヴィブラフォン、ティンパニ、ドラムスなど、多様な打楽器を演奏し、ニューイングランド音楽院で音楽の学士号を取得、後に名誉博士号も授与されました。

ボストン交響楽団での活躍

1956年から2002年まで、ファースはボストン交響楽団の首席ティンパニ奏者を務めました。1952年に打楽器奏者として楽団に入団した際、彼は最年少のメンバーでした。彼の卓越した技術と音楽性は、楽団のサウンドを大きく向上させ、数々の名演を支えました。

教育者、著述家としての貢献

ファースは、後進の育成にも力を注ぎました。彼は1963年に『The Solo Timpanist』を著し、スネアドラム教本『Snare Drum Method Book I - Elementary』（1967年）と『Snare Drum Method Book II - Intermediate』（1968年）を出版しました。これらの教本は、オーケストラにおけるスネアドラムのテクニックを、当時のアメリカ・ルーディメンタルドラマー協会（NARD）が定めていた26のルーディメンツに基づいて教えるものでした。1968年には、さらに上級者向けの教本『The Solo Snare Drummer』も出版しました。

ヴィックファース・カンパニーの設立と成功

1963年、ファースは自身の名を冠したドラムスティック会社、ヴィックファース・カンパニーを設立しました。この会社は、彼がボストン交響楽団で演奏する中で、既存のドラムスティックに満足できず、より高品質なものを求めたことがきっかけでした。彼は自らドラムスティックのデザインを手掛け、最初の試作品を製作しました。

太めのスティックから手作業で削り出したプロトタイプを、カナダの木材旋盤工場へ送り、そこで作られた2種類のスティックが、後にSD1、SD2として知られるようになり、ヴィックファース社の最初の製品となりました。ファースは「必要だったから生まれたのであり、想像力とか、自分が創業できる力があるかといったことじゃなかった」と語っています。これらのドラムスティックは、当初は自分用に作ったものでしたが、生徒たちの間で人気となり、やがて小売店で販売されるようになりました。

2012年時点で、ヴィックファース・カンパニーは300点の商品を扱い、年間1200万本のドラムスティック類を生産する世界最大のドラムスティックメーカーとなりました。2010年にはアヴェディス・ジルジャン社と合併しましたが、両社はそれぞれ独立して経営されることとなりました。

死去

2015年7月26日、ファースはマサチューセッツ州ボストンの自宅で、85歳でその生涯を閉じました。

レガシー

ヴィック・ファースは、音楽家、教育者、そして起業家として、音楽界に多大な貢献をしました。彼の創設したヴィックファース・カンパニーは、現在も世界中のドラマーに愛用される高品質なドラムスティックを提供し続けています。彼の音楽への情熱と革新的な精神は、後世に語り継がれることでしょう。

もう一度検索