ヴェスト・スライファー

ヴェスト・メルヴィン・スライファー：宇宙膨張の謎に迫った先駆者

ヴェスト・メルヴィン・スライファー (1875年11月11日-1969年11月8日) は、アメリカ合衆国を代表する天文学者の一人です。彼の最大の功績は、銀河の赤方偏移の発見にあります。これは、後にエドウィン・ハッブルらによって提唱される宇宙膨張理論の重要な手がかりとなった、画期的な発見でした。

スライファーは、インディアナ州マルベリィに生まれ、インディアナ大学で学びました。その後、アリゾナ州にあるローウェル天文台で研究生活を送ることになります。1926年から1952年まで、同天文台の所長を務め、天文学の発展に大きく貢献しました。

彼の研究は、分光学的手法を用いた惑星科学に焦点を当てていました。惑星の自転周期や大気の組成を精密に分析し、太陽系惑星に関する貴重な知見をもたらしました。しかし、彼の名を不朽のものとしたのは、銀河の赤方偏移の発見です。

1912年、スライファーは、系外銀河のスペクトル線が赤色側にずれていることを発見しました。これは、銀河が私たちから遠ざかっていることを示唆するものでした。この発見は、当時としては非常に驚くべきものであり、宇宙の構造や進化に関する理解を根本から変える可能性を秘めていました。

しばしば、宇宙膨張の発見者はエドウィン・ハッブルであるとされていますが、スライファーの発見はハッブルよりも先行するものです。ハッブルとヒューメイソンが成し遂げたのは、銀河までの距離と遠ざかる速度の間に比例関係があることを明らかにしたことでした。スライファーの発見は、ハッブルの研究の土台となり、宇宙膨張という概念の確立に大きく貢献したと言えるでしょう。他に、ジェームズ・キーラーやウィリアム・キャンベルなども、ハッブルに先駆けて赤方偏移を観測していましたが、スライファーの貢献は特に重要視されています。

スライファーの業績は、天文学界において高く評価され、数々の賞を受賞しました。ヘンリー・ドレイパー・メダル (1932年)、イギリス王立天文学会ゴールドメダル (1933年)、そしてブルース・メダル (1935年)など、権威ある賞を手にしました。

ローウェル天文台長としてのスライファーは、クライド・トンボーによる冥王星の発見を指導したことで知られています。トンボーは、スライファーの指導の下、長年の観測と緻密な計算を経て、この太陽系外縁部の天体を発見しました。この発見は、太陽系の理解を深める上で大きな一歩となりました。

スライファーの弟、アール・スライファーも天文学者として活躍しました。兄弟そろって天文学に貢献したことは、天文学史において特筆すべき出来事です。彼らの功績を称え、小惑星(1766)スライファーは、スライファー兄弟にちなんで命名されました。

ヴェスト・スライファーの研究は、現代宇宙論の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。彼の発見と貢献は、これからも天文学研究に大きな影響を与え続けるでしょう。

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