クライド・トンボー

クライド・ウィリアム・トンボー

クライド・ウィリアム・トンボー（Clyde William Tombaugh, 1906年2月4日 - 1997年1月17日）は、アメリカ合衆国の高名な天文学者です。特に、1930年に当時の第9惑星である冥王星を発見した功績で、その名を歴史に刻んでいます。

生涯

トンボーはイリノイ州ストリーターで生を受けました。思春期に家族とともにカンザス州西部へ転居しましたが、そこで農場が壊滅的な雹害に見舞われたため、大学への進学を断念せざるを得なくなりました。しかし、天文学への情熱を失うことなく、独学で知識を深め、1926年には初めて自らの手で天体望遠鏡を製作しました。その後2年間の間にさらに2基の望遠鏡を作り上げ、観測技術を磨きました。

自作望遠鏡を用いて観測した火星と木星の詳細な記録を、アリゾナ州フラッグスタッフにあるローウェル天文台に送ったところ、彼の卓越した観測能力と熱意が認められ、1929年に天文台に迎え入れられることとなりました。

ローウェル天文台での職務の傍ら、1932年にはカンザス大学に入学し、体系的な学問を修めました。1936年に学士号、1939年には修士号を取得した後、再びローウェル天文台に戻り、研究活動を続けました。

第二次世界大戦中の1943年から1945年にかけては、アリゾナ州立大学でアメリカ海軍の士官候補生たちに航海術を教える任務に就きました。

戦後、ローウェル天文台は財政的な困難を抱えており、彼は研究者として復帰することが叶いませんでした。その後、1946年から9年間はニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場で、宇宙開発に関連する研究開発に携わりました。そして1955年からは、ニューメキシコ州ラスクルーセスのニューメキシコ州立大学で教鞭を執り、多くの学生を指導しました。彼は1973年に大学を退職しましたが、その後もニューメキシコ州立大学のトンボー基金のために、アメリカとカナダ各地で精力的に講演活動を行いました。

彼は91歳の誕生日を迎えるわずか数週間前の1997年1月17日、ラスクルーセスの自宅で安らかに生涯を閉じました。

彼の遺灰の一部は、彼の発見した冥王星を目指して2006年に打ち上げられたNASAの探査機ニュー・ホライズンズに搭載されました。この探査機に納められたコンテナには、彼の生涯と業績を称える銘文が刻まれています。これは、冥王星への彼の貢献と、太陽系探査の歴史における彼の位置づけを示す象徴的な出来事となりました。

主な業績

冥王星の発見

ローウェル天文台に勤務を始めて間もなく、トンボーは天文台長のヴェスト・スライファーの指示のもと、新たな惑星の探索任務に就きました。これは、天王星や海王星の軌道にわずかなずれがあることから、その外側に未知の惑星が存在すると考えたパーシヴァル・ローウェルの予測に基づくものでした。トンボーは、ローウェルが予測した領域を中心に、天空の広範囲にわたる写真プレートを詳細に調査しました。

この探査には、異なる時期に同じ星野を撮影した2枚の写真プレートを交互に高速で切り替えて表示し、背景の恒星が固定されて見える中で、位置を変えている天体（惑星や小惑星など）を見つけ出す「点滅コンパレーター」という、当時最新鋭の比較観測装置が用いられました。トンボーは膨大な数の星々の中から、わずかな動きを示す天体を見つけ出すという、根気の要る作業を続けました。

そして1930年2月18日、ついにトンボーは、前月に撮影された写真と比べて明らかに位置を移動している天体を発見しました。彼は慎重な追観測を行い、その天体が海王星よりはるか遠方にあり、彗星や既知の小惑星ではないことを確認しました。その結果、これがパーシヴァル・ローウェルが探し求めた「第9番惑星」であると確信し、世紀の発見として発表されました。

発見された天体の命名に際しては、様々な提案が寄せられましたが、最終的にイギリスの11歳の少女ヴェネチア・バーニーによる「プルートー（Pluto）」という提案が採用されました。この名前はローマ神話の冥府の神に由来し、その姿が見えないことや、発見者パーシヴァル・ローウェルのイニシャル（PL）と一致することなどが採用の理由となりました。冥王星は1930年5月1日に正式に命名されました。

その他の発見

冥王星発見後も、トンボーは新たな惑星の探索を継続しましたが、冥王星と同程度の明るさを持つ天体は黄道周辺には見つかりませんでした。しかし、その広範な観測活動の中で、彼は多くの重要な発見をしています。確認されただけでも数百個の変光星、約800個の小惑星、2個の彗星、そして29,000個を超える銀河を発見しました。特に小惑星に関しては、生涯で約800個を発見し、そのうちのいくつかは、彼の家族の名前（娘アネット、息子オールデン、妻パトリシア、孫たち）から命名されています。また、1931年に彼が発見した彗星（C/1931 AN）は、後に別の天文学者が発見した彗星と同一であることが判明し、「274P/トンボー・テナグラ彗星」と名付けられました。

その他の逸話

トンボーはUFO（未確認飛行物体）にも強い関心を抱いており、1950年代にはアメリカ軍からの要請でUFOに関する調査を行ったという話が広まりました。しかし、これは当時の宇宙開発において地球近傍に存在する可能性のある危険な物体（小惑星など）を探索する調査依頼が、マスメディアによってUFO関連の報道と結びつけられたものであり、実際には彼の天体観測の実績に基づいた正規の科学調査でした。

受賞・栄誉

彼の功績は高く評価され、1931年にはイギリス王立天文学会からジャクソン＝グウィルト・メダルを受賞しています。

また、彼の名にちなんで命名された天体や地形も存在します。[小惑星]が「トンボー」と名付けられているほか、冥王星の表面にある大きなハート形の明るい領域が「トンボー地域」（Tombaugh Regio）と命名されています。これらは、彼の天文学への多大な貢献を記念するものです。

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