ヴェニスの謝肉祭

ヴェニスの謝肉祭

『ヴェニスの謝肉祭』（イタリア語: Il carnevale di Venezia）は、ヴァイオリニスト兼作曲家として歴史に名を刻むニコロ・パガニーニ（1782-1840）が、親しみやすいナポリ民謡の旋律を用いて1829年に完成させたヴァイオリン独奏のための変奏曲です。この主題は当時非常に普及しており、パガニーニの作品以外にも、多くの作曲家によって様々な楽器向けの変奏曲が創作されました。

パガニーニの作品について

パガニーニは1828年にウィーンを訪れた後、1829年から翌年にかけてドイツ各地で精力的な演奏旅行を展開しました。本作、作品10は、このドイツ滞在中に書き上げられた楽曲の一つです。

楽曲の主題となった旋律は、パガニーニが採用する以前から広く人々に知られていました。例えば、フランスの作曲家ルイ＝リュック・ロワゾー・ド・ペルスュイとロドルフ・クレゼールは、1816年に初演されたバレエ『ヴェニスの謝肉祭』の中で既にこの旋律を用いています。また、詩人トマス・ムーアは、このバレエに触発され、旋律に「Oh, come to me when daylight sets」という英語の歌詞を付与し、1818年に発表しています。

パガニーニ自身は当初、この作品を『ナポリのカンツォネッタ「いとしいマンマ」によるアダージョ・カンタービレと変奏曲』と名付けていました。しかし、彼の没後に出版される際に、『「ヴェニスの謝肉祭」の主題による序奏と変奏曲』作品10として世に送り出されました。

楽曲はイ長調、6/8拍子で構成され、主題に続く20の変奏と、短い終結部から成ります。形式的には比較的簡潔で、各変奏は16小節のまとまりを持ち、調性の変更もありません。にもかかわらず、それぞれの変奏には大きな性格や技巧的な変化が付与されており、聴き手を飽きさせない創意工夫が凝らされています。

多彩な「ヴェニスの謝肉祭」変奏曲

パガニーニの作品に用いられたこの旋律の人気は高く、彼以外にも多くの作曲家がこの主題を基に様々な楽器のための変奏曲を創作しました。主な作品には以下のようなものがあります。

ハインリヒ・ヴィルヘルム・エルンスト: パガニーニの演奏に感銘を受け、自身もヴァイオリンとピアノのための変奏曲 作品18を書いています。
アドリアン＝フランソワ・セルヴェ: チェロのための『ヴェニスの謝肉祭によるブルレスク風幻想曲』作品9を遺しました。
ポール・ジェナン: フルートとピアノのための変奏曲 作品14を手がけています。
ジュリオ・ブリッチャルディ: フルートと管弦楽のための変奏曲 作品78を作曲しました。
ジュール・ドゥメルスマン: フルートとピアノのための『ヴェニスの謝肉祭による序奏と変奏曲』作品7があります。この曲はフレデリック・ヘムケによってアルトサクソフォーン用にも編曲されています。
ジャン＝バティスト・アルバン: コルネットのための有名な変奏曲を生み出しました。この楽曲は様々な金管楽器のために編曲され、広く演奏されています。
フレデリック・ショパン: 没後出版されたピアノ変奏曲『パガニーニの思い出』は、1829年にワルシャワでパガニーニの演奏した本作を聴いて作曲されたと言われています。また、それ以前にもムーア経由で知った同じ旋律による連弾用の変奏曲（1826年頃）を書いています。
フランツ・リスト: ピアノのための変奏曲（S.700/700a、未完成）に着手しました。リストがどのようにこの主題を知ったかは明確ではありませんが、パガニーニの演奏を聴いた可能性も指摘されています。
フランシスコ・タレガ: ギター独奏のために、パガニーニの作品を基にした変奏曲を作曲しました。
ヨハン・シュトラウス1世: 管弦楽のための幻想曲『エルンストの思い出、またはヴェニスの謝肉祭』作品126の中で、この旋律を用い、各楽器の技巧的なソロを盛り込んでいます。

その他

2013年に公開された映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』では、デイヴィッド・ギャレットが演じるパガニーニがギター伴奏でこの楽曲を演奏する場面が登場します。

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