ヴェネツィア十字軍

ヴェネツィア十字軍：聖地への遠征と商業的成功

ヴェネツィア十字軍は、1122年から1124年にかけてヴェネツィア共和国の主導によって行われた、聖地への軍事遠征です。この遠征は、エルサレム王国の拡大期における重要な出来事であり、ヴェネツィアに多大な利益をもたらしました。

背景：エルサレム王国の危機とヴェネツィアの介入

1118年、エルサレム王ボードゥアン1世が亡くなり、甥であるボードゥアン2世が王位を継承しました。しかし、ボードゥアン2世は即位後すぐにムスリム勢力との戦いに苦戦し、1119年のアジェ・サンギニスの戦いでの敗北により、十字軍の勢力は大きく衰退しました。危機的な状況を打開するため、ボードゥアン2世はローマ教皇カリストゥス2世に救援を要請。教皇はヴェネツィア共和国に聖地への支援を求めました。

交渉の結果、ヴェネツィアは十字軍への軍事援助を決定。教皇はヴェネツィアに対し、贖罪を含む十字軍特権を認めました。1122年8月、ドメニコ・ミケーレ総督率いるヴェネツィア艦隊は、120隻以上の艦船と15,000人の兵士を擁して出港しました。

ケルキラ島包囲と聖地への進軍

ヴェネツィア艦隊は、ビザンツ帝国との商業的紛争を抱えていたため、途中でケルキラ島を包囲しました。しかし、1123年にボードゥアン2世が捕虜になったという知らせを受け、包囲を中止して聖地へと向かいました。同年5月、ヴェネツィア艦隊はパレスチナ沖に到着しました。

ヤッファの戦い：ファーティマ朝艦隊を撃破

ヴェネツィア艦隊は、アッコに到着後、アレッポ総督を支援するために派遣されたファーティマ朝艦隊と交戦。ミケーレ総督は、自軍を弱く見せかける作戦で敵を誘い込み、兵力に勝るヴェネツィア艦隊で包囲して大勝しました。ファーティマ朝艦隊は提督を含む4,000人もの損害を出し、9隻の軍船を拿捕されました。

ティルス包囲戦：十字軍の勝利とヴェネツィアの特権

1124年2月、ヴェネツィア軍とフランク軍は、現在のレバノンに位置する港町ティルスを包囲しました。十字軍は攻城塔や投石機を駆使して攻撃を仕掛け、ティルスを守備するムスリム軍も必死に応戦しました。包囲戦が長期化するにつれ、ティルス市内の食糧が不足し、救援を求める使者が周囲に派遣されました。

最終的に、ティルスは1124年6月29日に降伏しました。降伏条件により、ティルス市民の財産と生命は保証され、退去を希望する市民は財産とともに退去することが許可されました。この取り決めは、市街略奪を目論んでいた十字軍兵士には不評でした。

ティルス陥落後、ボードゥアン2世はヴェネツィア人の商業特権を認め、彼らの海上影響力を利用して東地中海における十字軍の存在感を確保しました。この特権には、ティルスで死亡・難破したヴェネツィア人の相続人に対する保証も含まれていました。

その後：ヴェネツィアの商業的拡大

ティルス陥落後、多くの住民がダマスカスに移住しました。ボードゥアン2世はアレッポ・ダマスカスとの戦争を再開し、両地域からの貢納を獲得しました。ティルスはエルサレム王国の一都市として繁栄し、第3回十字軍の際には、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世が埋葬されたと伝えられています。

帰還途中、ヴェネツィア艦隊はビザンツ帝国領のギリシャ諸島を襲撃し、帝国に商業特権を認めさせました。ヴェネツィア十字軍は、聖地の領土拡大に貢献するとともに、ヴェネツィア共和国に商業的な繁栄をもたらしたのです。

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