ヴェルギナの太陽

ヴェルギナの太陽：古代マケドニアの象徴を巡る物語

ヴェルギナの太陽は、古代マケドニア王国の象徴として知られる、光線状の太陽の紋章です。この紋章は、紀元前6世紀から2世紀にかけて古代ギリシャの芸術に登場し、特に16本の光線を持つものが一般的でした。しかし、なぜこの紋章が「ヴェルギナの太陽」と呼ばれるようになり、そして現代においてどのような意味を持つのでしょうか。

発見と普及

「ヴェルギナの太陽」という名前は、1970年代後半にギリシャ北部のヴェルギナで発見されたことに由来します。この地は古代マケドニア王国の旧都であり、発掘調査によって紀元前4世紀の王墓が発見されました。その中には、ピリッポス2世またはピリッポス3世の墓とされるものもあり、黄金のラルナクス（小棺）にヴェルギナの太陽が描かれていたのです。

この発見以降、ヴェルギナの太陽は古代マケドニア王家の象徴として認識されるようになり、1980年代からはギリシャのマケドニア地方を中心に広く使用されるようになりました。地域単位や自治体の公式エンブレムにも採用され、マケドニアのアイデンティティを象徴する存在となっていきました。

紋章を巡る論争

しかし、ヴェルギナの太陽は、1990年代にギリシャとマケドニア共和国（現北マケドニア）の間で深刻な論争を引き起こしました。1991年にユーゴスラビアから独立したマケドニア共和国が、この紋章を国旗に採用したためです。ギリシャは、マケドニア王国の正当な後継者はギリシャ人であると主張し、スラブ系のマケドニア人がこの紋章を使用することは歴史の盗用であると非難しました。

この問題は両国間の関係を悪化させ、国際的な仲介も行われました。最終的に、1995年にマケドニア共和国は国旗のデザインを変更し、ヴェルギナの太陽に類似した別の太陽の紋章を採用することで合意しました。しかし、ヴェルギナの太陽を巡る感情的な対立は、その後もくすぶり続けました。

プレスパ合意とその後

2018年、ギリシャとマケドニア共和国は国名変更問題を含む包括的な解決を目指し、プレスパ合意に署名しました。この合意に基づき、マケドニア共和国は国名を「北マケドニア共和国」に変更し、公共の場からヴェルギナの太陽を撤去することが定められました。そして2019年、北マケドニア政府は考古遺跡を除くすべての公共の場からヴェルギナの太陽を撤去することを発表し、長年の論争に終止符が打たれました。

ヴェルギナの太陽は、古代マケドニア王国の栄光を象徴する一方で、ナショナリズムやアイデンティティを巡る複雑な問題を浮き彫りにする存在でもありました。その歴史的背景と現代における意味合いを理解することは、バルカン半島の歴史と文化を理解する上で重要な要素となるでしょう。

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