ヴェーダーンガ

ヴェーダを支える六つの学問：ヴェーダーンガ

ヴェーダーンガとは、古代インドにおいてヴェーダ経典を正しく理解し、祭祀を円滑に行うために不可欠な六つの補助学問を指します。「ヴェーダの四肢」という意味を持つこの体系は、バラモンによる正確な祭祀の実践に大きく貢献しました。

ヴェーダーンガを構成する六つの学問は以下の通りです。それぞれがヴェーダ理解の異なる側面を担っており、相互に関連し合いながら全体を支えています。

1. シクシャー (śikṣā)：音声学
ヴェーダの聖句を正確に、そして美しく発音するための技術を体系化した学問です。正しい発音は、聖句の力を最大限に引き出すために不可欠だと考えられていました。

2. カルパ (kalpa)：祭祀規定
祭祀の具体的な手順、儀式、供物、祭壇の構築方法などを詳細に規定した学問です。正確な手順に従うことで、神々への適切な敬意を表し、望ましい結果を得られると信じられていました。カルパはさらに、大規模な祭祀を扱うシュラウタ・スートラ、祭壇の寸法などを記したシュルバ・スートラ、家庭内で行われる小規模な祭祀を扱うグリヒヤ・スートラ、そしてバラモンの行動規範を示すダルマ・スートラなどに分類されます。これらは『カルパ・スートラ』としてまとめられています。

3. ヴィヤーカラナ (vyākaraṇa)：文法学
ヴェーダ経典の言語であるサンスクリットの文法を体系的に研究する学問です。文法の正確な理解なしに、経典の真意を理解することは不可能でした。特にパーニニの文法は、後のサンスクリット研究にも大きな影響を与えています。

4. ニルクタ (nirukta)：語源学
ヴェーダで使われる古語や難解な語句の意味や語源を解明する学問です。古代語の解釈は、経典の理解に不可欠でした。

5. チャンダス (chandas)：韻律学
ヴェーダの聖句に見られる韻律や詩形を研究する学問です。ヴェーダの聖句は、単なる散文ではなく、一定の韻律に従って構成されていることが多く、その韻律の理解は、聖句の解釈に重要でした。

6. ジヨーティシャ (jyotiṣa)：天文学・占星術
祭祀を行うのに最適な日時や、暦、天文現象などを研究する学問です。占星術的な要素も含まれ、天体の運行と人間の運命、そして祭祀の成功を結びつける考え方がありました。

これらのヴェーダーンガは、バラモン教における祭祀の実践に不可欠な知識体系であり、ヴェーダ経典の解釈と実践を支える重要な役割を果たしました。それらはブラーフマナ時代以降に発展し、言語学的な証拠から、パーニニの文法と同時期に成立したと推測されています。ヴェーダーンガの研究は、古代インドの宗教、文化、社会、そして言語の理解に欠かせないものです。

参考文献
Macdonell, A.A. (1900). A History of Sanskrit Literature. New York: D. Appleton and Company. https://archive.org/details/historyofsanskri00macduoft

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