ヴェールを被る婦人の肖像

ラファエロの傑作『ラ・ヴェラータ』：ヴェールに隠された美と謎

『ラ・ヴェラータ』、または『ヴェールを被る婦人の肖像』は、盛期ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンツィオが1516年頃に描いた油彩画です。この作品は、ラファエロの最も美しい女性像の一つとされ、そのモデルは彼の愛人であり、『システィーナの聖母』などの重要な作品にも登場するフォルナリーナ、ことマルゲリータ・ルーティであると考えられています。

作品の特徴

ラファエロは、黒い髪と瞳を持つ女性を四分の三正面の角度で描いています。胸像で表現された若い女性は、豪華な衣服を身に着け、上半身を覆うヴェールをまとっています。彼女は右肩と腕をヴェールで隠し、手だけを胸に当てていますが、左手は完全には描かれていません。髪を飾る真珠や首のネックレス、金の刺繍が施された衣服は、彼女の社会的地位の高さを物語っています。また、ヴェールは彼女が子供を持つ既婚女性であることを示唆しています。

胸元のフリルシャツは繊細で、左肩の膨らんだ袖は、幾重にも深い折り目を形成し、高品質なシルクの光沢を美しく反射させています。ラファエロは、ここでは線の明瞭さよりも光と色彩の関係を重視しており、特に左肩の膨らんだ袖において、その見事な成果が見られます。

構図と影響

この作品は、純粋な肖像画というよりも、ある程度理想化された女性像と言えるでしょう。一説には、この作品は聖人を描いたものであり、アレクサンドリアの聖カタリナの習作ではないかとも考えられています。ポーズはレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の影響を受けており、ラファエロは初期からダ・ヴィンチの肖像画のポーズを繰り返し用いてきました。しかし、『ラ・ヴェラータ』では、『マッダレーナ・ドーニの肖像』や『ラ・グラーヴィダ』、『ラ・ムータ』といった過去の肖像画には見られない変化が見られます。彼は、像の幅を広げることで、よりくつろいだ姿で空間に配置し、『モナ・リザ』の三角形の構図を超越することに成功しています。

モデルを巡る議論

美術史家パサヴァンは、『システィーナの聖母』やサンタ・マリア・デッラ・パーチェ教会の壁画『プリュギアの巫女』に見られる女性像の顔の類似性に着目し、この作品をラファエロの作品と断定しました。さらに、裸婦画『ラ・フォルナリーナ』との比較から、モデルが同一人物であると推測しました。美術史家のジョヴァンニ・モレッリ、カヴァルカゼル、エンリコ・リドルフィらも同様の見解を支持しています。

フォルナリーナ（マルゲリータ・ルーティ）は、身分の低い女性でしたが、その美しさからラファエロは彼女への愛のために、ビッビエーナ枢機卿の姪との婚約を破棄したとされています。しかし、オーベルフーバーのように、2人は別人であり、『ラ・ヴェラータ』のモデルは既婚女性として描かれていることから、ローマの無名の貴婦人であるとする反対意見も存在します。

いずれにせよ、フォルナリーナはラファエロの多くの作品で女性像のモデルを務めましたが、1514年頃を境にその姿は見られなくなり、数年後に謎めいた『ラ・フォルナリーナ』として再び登場します。『ラ・ヴェラータ』と『ラ・フォルナリーナ』は、顔の特徴だけでなく、ポーズや構図にも明らかな類似性が見られます。特筆すべきは、『ラ・ヴェラータ』と『ラ・フォルナリーナ』が、同じデザインの真珠のアクセサリーを同じ場所に身に着けている点です。真珠はラテン語でマルガリータ（Margarita）であり、ラファエロは真珠を描くことで、『ラ・ヴェラータ』のモデルがマルゲリータ・ルーティであることを暗示していると考えられています。また別の研究では、2つの女性像を同じ縮尺で重ねると、顔と胸の比率が完全に一致するという結果も出ています。

作品の来歴

ジョルジョ・ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』によれば、この作品はフィレンツェの商人マッテオ・ボッティ家に所蔵されており、その後、ラファエロ・ボルギーニやフランチェスコ・ボッキもボッティ家でこの作品を見たと証言しています。しかし、ボッティ家がどのようにしてこのローマで描かれた絵画を入手したのかは不明です。ボッティ家は15世紀末にクレモナからフィレンツェに移住し、1527年に市民権を得ました。彼らは芸術家と親交があり、ヴァザーリはシモーネ・ボッティを美術愛好家として称賛しています。このシモーネは、1545年から1547年にかけてパオロ・ジョーヴィオ司教の首席書記官としてローマに滞在しており、この期間にローマでこの作品を購入したのではないかと推測されています。

1619年、ボッティ家の最後の相続人であるマッテオ・ボッティは、年金の支払いと借金返済の代わりに、すべての資産を大公コジモ2世に譲渡しました。こうしてメディチ家のコレクションに入った絵画は、1622年の財産目録に記録されましたが、その帰属については「ウルビーノのラファエロが描いたと言われている」と懐疑的な記述になっています。その後、ラファエロの名前は記録から消えますが、絵画への敬意は失われず、展示場所は変わってもピッティ宮殿から移動することはありませんでした。ピエトロ・レオポルドの時代には、「ユピテルの間」で他の名画とともに展示されましたが、その後、配置替えの際に誤ってユストゥス・シュステルマンスに帰属されたため、ナポレオンのイタリア侵攻の際に見逃され、イタリアに残されることになったという逸話も残っています。

現在、『ラ・ヴェラータ』はフィレンツェのピッティ宮殿、パラティーナ美術館に所蔵されており、その優美な姿は多くの人々を魅了し続けています。

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