ヴォアザン計画

ヴォアザン計画：ル・コルビュジエの革新的都市構想とその影響

1925年、建築家ル・コルビュジエが発表した「ヴォアザン計画」は、パリ中心部の再開発を構想した野心的な計画です。実現には至りませんでしたが、その革新的なアイデアは、世界中の都市計画に多大な影響を与え、現代建築史において重要な位置を占めています。本稿では、ヴォアザン計画の背景、特徴、評価、そしてその後の影響について詳しく解説します。

計画の背景：1920年代のパリとモダニズムの台頭

ヴォアザン計画の誕生には、1920年代のパリの都市問題が深く関わっています。19世紀のパリ改造によって、富裕層は郊外へと移住し、中心市街地にはブルジョワジーと貧困層が混在する状況が生まれました。衛生状態の悪化、経済格差の拡大、そして慢性的な住宅不足は、深刻な社会問題となっていました。

ル・コルビュジエは、こうした問題意識を背景に、1922年に「現代都市」計画を発表。超高層ビル群による大規模な都市再開発構想を打ち出しました。この計画は、後にガブリエル・ヴォアザンという実業家の協力を得て、より具体的な「ヴォアザン計画」へと発展していきます。ヴォアザンは、コルビュジエの先進的なデザイン思想に共感し、計画実現に尽力しました。

計画の特徴：モダニズム都市の理想像

ヴォアザン計画は、パリ中心部の260ヘクタールに、18棟の均一な超高層ビルを配置するというものでした。各ビルには、ル・コルビュジエが提唱した「ユニテ・ダビタシオン」の思想が反映されており、住居、商業施設、公共施設が一体となった複合的な空間が計画されていました。

計画の特徴は、以下の通りです。

高層化と高密度化：既存市街地とは対照的に、高層ビルによる高密度化を実現。限られた土地を効率的に活用することで、大規模な人口収容を目指しました。しかし、市街地は計画敷地の12％に留められ、オープンスペースを多く確保することにより、近代的な都市生活の快適性を追求しました。そのうち約半分が住居空間、残り半分は商業施設や公共施設などに充てられる計画でした。
自動車交通への対応：計画では、自動車交通を重視し、幅広い道路と歩行者用の並木道を整備。車と歩行者の動線を明確に分けることで、安全で快適な都市空間を目指しました。
* 機能主義：ビルは機能別に階層化され、地上階には商業施設やオフィス、上階には住居空間（「ドミトリー」と表現）が配置されるなど、機能主義的な設計思想が反映されています。

批評と拒絶：実現しなかった革新

ヴォアザン計画は、その革新性ゆえに、パリ市当局から拒絶されました。当時としてはあまりにも先鋭的なアイデアであり、市民からの支持も必ずしも得られていたとは言えません。しかし、ル・コルビュジエは、マニフェストや出版物を通じて計画の理念を積極的に発信し、多くの前衛芸術家や実業家たちの支持を集めました。

ヴォアザン計画の遺産：世界に広がる影響

ヴォアザン計画は実現しませんでしたが、その思想は世界中の都市計画に大きな影響を与えました。特に、高層集合住宅、機能的な都市設計、自動車交通への配慮といった要素は、後のモダニズム都市計画の重要な要素となりました。

パリ郊外のドランシーの集合住宅団地シテ・ラ・ミュエット、ラ・デファンスのビジネス街などは、ヴォアザン計画の影響を受けた例として挙げられます。また、戦後のヨーロッパにおける建設ブームや、ブラジリアの建設など、世界各地の都市計画にもその理念は継承されています。さらに、1947年のアテネ憲章にも、その影響が見られます。

ヴォアザン計画は、ル・コルビュジエの理想的な都市像を具体的に示しただけでなく、現代都市計画におけるモダニズムの潮流を決定づけた重要な計画であったと言えるでしょう。その功績は、計画が実現しなかったことによって、かえって大きく評価されています。

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