ヴォルマー

ヴォルマー（エストニア語: Võrumaa、ヴォロ語: Võromaa）は、エストニア南東部のヴォロ語使用地域を表す概念です。日常生活ではヴォル県のみを指しますが、広義にはヴォル県に加え、ポルヴァ県とヴァルカ県の一部を含みます。

沿革

「ヴォル」という語が初めて地図に登場したのは、1783年、エカテリーナ2世の地方行政改革によってロシア帝国リフリャント県にヴォル郡が設置された時でした。このヴォル郡の領域が、伝統的なヴォロ語使用地域であり、現代の地域運動家が規定するヴォルマーとおおよそ一致します。

その後、エストニア第一共和国時代には、1920年にヴォル郡の西部がヴァルカマーへと移管されました。さらに、エストニア・ソビエト社会主義共和国時代の1950年には大規模な地方行政改革が実施され、ヴォル郡は一部がポルヴァ地区へ分割された上で、ヴォル地区へと改組されました。そして、ソビエト連邦からのエストニア独立回復期の1990年、ヴォル地区は現在のヴォル県へと改称されました。

独立回復期には、人工的な行政単位であるヴォル県・ポルヴァ県・ヴァルカ県ではなく、ヴォロ語という「本質的な統一性」に基づく「ヴォルマー」再興の機運が高まりました。知識人の間では当初、ヴォロ語話者（ヴォル人）の祖先とされる言語集団の住んだ土地「ウカンティ」（およびその異称である「ウアンティ」「ウカラ」）をエストニア南東部の名称として復活させようとしました。ただし、現代のヴォルマーはウカンティの南半分に過ぎません。

しかし、「ウカラ」という語は若年層にはヴォルマーと結び付かず、高齢者層には蔑称と捉えられたため、この試みは定着しませんでした。今日の知識人はこの領域を、地域運動の文脈では「歴史的ヴォル地方」(ajalooline Võrumaa) と称し、一般的な文脈では「エストニア南東部」と呼んでいます。

ヴォル地域主義運動の初期には、ヴォル・ポルヴァ・ヴァルカ3県を統合したヴォルマー・アイデンティティの復興も盛んに語られました。しかし、「県」(maakond) の愛称としての「マー」(maa) の浸透によって生まれた、「ポルヴァマー」などの新語に「ヴォルマー」も埋没したため、もはや運動家もヴォルマーの統一を語ることはなくなっています。

参考文献

* 寒水明子『地域主義運動における言語と知識人 - エストニア南部ヴォル地方の事例から』（博士（学術）論文・文化科学研究科地域文化学専攻）総合研究大学院大学、1998年。doi:10.11501/3157023。

もう一度検索