ヴフテマス

ヴフテマス：ロシア・アヴァンギャルドの揺籃

ヴフテマス（Вхутемас、Vkhutemas）は、1920年から1930年にかけてモスクワに存在したソ連国立高等教育機関です。その正式名称は「Высшие художественно-технические мастерские」で、国立高等美術工芸工房、国立高等芸術技術工房などと訳されます。ロシア・アヴァンギャルドを代表する芸術運動、構成主義やシュプレマティスムと深く関わり、革新的な美術教育を実践したことで知られています。

設立と教育

ヴフテマスの設立は、モスクワの絵画彫刻建築学校とストロガノフ応用美術学校を統合、さらにペトログラードにあったスヴォマス（国立自由美術工房）を改組する形で実現しました。1918年に発足したバウハウスにわずか1年遅れての設立でしたが、その教育内容はバウハウスと共通点が見られる一方、独自の特色も持ち合わせていました。

ヴフテマスは芸術学部と産業学部を設置。芸術学部ではグラフィック、彫刻、建築、産業学部では印刷、陶芸、テキスタイルデザイン、木工、金属加工などを教育しました。基礎造形教育を重視し、建築、工芸、産業デザイン、工業デザインといった分野を重視したカリキュラムは、当時の社会情勢を反映したものでした。約2700名の学生と100名以上の教員を擁し、活気ある教育機関として発展していきました。

教員陣と卒業生

ヴフテマスの教員陣は、ロシア・アヴァンギャルドを代表する錚々たるメンバーで構成されていました。ワシリー・カンディンスキー（後にバウハウスに移籍）、リューボフ・ポポーワ、アレクサンドル・ロトチェンコ、ウラジーミル・タトリン、エル・リシツキー、コンスタンチン・メーリニコフ、ナウム・ガボ、カジミール・マレーヴィチ、ヴェスニン兄弟、イワン・レオニドフ、イワン・クリュンといった巨匠たちが、学生たちに指導にあたりました。彼らによって、ヴフテマスはロシア・アヴァンギャルドの中心地として発展していきます。

卒業生にも、イワン・レオニドフやタチヤーナ・マーヴリナなど、後のロシアの芸術・デザイン界を担う多くの優秀な人材が輩出されました。

政治的圧力と閉鎖

しかしながら、ヴフテマスは常に政治的圧力にさらされていました。革新的な教育内容やアヴァンギャルド芸術への傾倒は、ソ連政府による社会主義リアリズム政策とは相容れない部分もあったのです。

1926年には学長が交代し再編、1927年には名称を「ヴフテイン（Вхутеин、Vkhutein、国立高等美術工芸研究所）」に変更しましたが、こうした努力もむなしく、1930年にはヴフテインは閉鎖、解体されました。教員と学生、そしてその資産は他の学校へと分散され、ヴフテマスの歴史に幕が閉じられました。

ヴフテマスの遺産

わずか10年間の歴史でしたが、ヴフテマスはロシア・アヴァンギャルド、ひいては世界のアートデザイン史に大きな足跡を残しました。その革新的な教育システムや、優れた教員と卒業生たちが生み出した作品は、現在も高い評価を受けており、多くの研究者や芸術家たちに影響を与え続けています。ヴフテマスは、時代を超えて現代の芸術教育に示唆を与え続ける、重要な存在と言えるでしょう。

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