ウラジーミル・タトリン

ウラジーミル・エヴグラフォーヴィチ・タトリンは、1885年12月28日にロシア帝国領下のウクライナ、ハリコフで生まれました。技術者の家庭に育ち、若い頃には水兵としてエジプトやシリアなど各地を航海した経験を持ちます。1909年にはモスクワの絵画・彫刻・建築学校で学び、芸術の道を歩み始めました。

1917年のロシア革命後、タトリンは芸術学校で教鞭を執り、人民教育委員会モスクワ支部長に就任するなど、積極的に社会活動にも関わりました。彼はカジミール・マレーヴィチらと共に、1920年代のソビエト連邦におけるロシア・アヴァンギャルド、特にロシア構成主義の代表的な作家として名を馳せました。しかし、その活動の中で、タトリンはマレーヴィチらと袂を分かち、構成主義を批判する立場を取ったことでも知られています。彼は独自の芸術観を追求し、既存の芸術概念にとらわれない革新的な作品を生み出しました。

タトリンの代表作としては、高さ400メートルにも及ぶ螺旋形の鉄塔を構想した「第三インターナショナル記念塔」（通称：タトリンの塔）が挙げられます。この記念塔は残念ながら実現には至りませんでしたが、その革新的なデザインは後世の建築家に大きな影響を与えました。また、「カウンター・レリーフ」と呼ばれる、壁の隅に張り渡した彫刻は、伝統的な絵画に対する批判的な視点から生まれたもので、タトリン自身はこれを立体的な絵画と捉えていました。

晩年、タトリンは鳥の飛び方を研究し、その知識を飛行技術の発展に役立てようとしました。彼の芸術に対する情熱と探究心は、生涯を通じて衰えることはありませんでした。タトリンは1953年5月31日にこの世を去り、モスクワの墓地に埋葬されました。

タトリンの作品は、美術、建築、デザインの分野にわたる多岐にわたり、その影響は現代にも及んでいます。彼の作品は、既存の枠にとらわれない自由な発想と、社会的な変革への強い意志を体現しています。特に「第三インターナショナル記念塔」は、20世紀初頭の芸術と社会思想を象徴する重要な作品として、今日でも高く評価されています。

参考文献

美術手帖 1974年9月号 特集 マレーヴィッチ 絵画の無化をめざして／美術出版社
美術手帖 1982年2月号 ロシア・アヴァンギャルドのデザイン感覚／美術出版社
季刊ウインド 1992年18号 連続特集 ロシア・アバンギャルド・デザインⅡ／商店建築社
桑野隆「夢見る権利 ロシア・アヴァンギャルド再考」東京大学出版局 1996年
八束はじめ「ロシア・アヴァンギャルド建築」LIXIL出版 新版2015年
亀山郁夫「ロシア・アヴァンギャルド」岩波新書 1996年

関連項目

30セント・メリー・アクス - 建築家ノーマン・フォスターによるデザイン。タトゥリンの作品「第三インターナショナル記念塔」のデザインの影響が見て取れる。

外部リンク

Анатолий Ромов, Романтика и конспирация времен Большого террора.
О Татлине на сайте художников Верхней Масловки
А. С. − Татлин Владимир Евграфович в «Журнальном зале»
Страхова Л. − В. Е. Татлин в интернет-журнале «Говорит Москва»
Рахтанов И. − Спираль художника в интернет-журнале «Говорит Москва»

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