ヴャチチ族

ヴャチチ族：東スラヴの歴史に名を刻む部族

ヴャチチ族は、8世紀から13世紀にかけて、現在のロシア領内、オカ川の上流・中流域に居住していた東スラヴ民族の部族集団です。彼らの足跡は、考古学的文化や年代記を通して知ることができます。

ヴャチチ族の地理的範囲

ヴャチチ族の居住地は、アラブの著述家によって「ヴァンティト」と呼ばれていました。考古学的な調査によると、その領域はオカ川、デスナ川の分水嶺に沿って南西に広がり、オカ川がモスクワ川と合流する地点まで、ウグラ川とオカ川によって形成された谷に沿って西へと続いていました。東の境界線は、クリャージマ川とその支流であるウチャ川との合流点付近まで広がっていました。特にオカ川の上流域は、ヴャチチ族によって完全に占められていたと考えられています。

歴史

『原初年代記』には、ヴャチチ族はリャフ人から派生したという記述があります。考古学的見地からは、ヴャチチ族の移住はドニエプル川左岸、またはドニエストル川上流から始まったと考えられています。また、ヴャチチ族の名は、一族をオカ川流域に導いたヴャトコという人物に由来するとも伝えられています。

民族構成

ヴャチチ族の構成員は、バルト地方の部族であるゴリャヂ族を基層としていたと考えられています。3世紀から5世紀にかけて、ゴリャヂ族はモシチナ文化を形成し、その後6世紀から8世紀にかけて、ヴャチチ族がオカ川流域に定住しました。ゴリャヂ族は10世紀半ば以降、歴史の表舞台から姿を消しますが、これはスラヴ民族への同化が完了したことを示唆しています。

ハザールとの関係

9世紀から10世紀半ばにかけて、ヴャチチ族はシェリャーグ（銀貨）をハザール・カガン国に貢納していました。これは、ヴャチチ族の居住地域が農業普及地帯であったことを示唆しています。9世紀にオレグがキエフを奪い、他の東スラヴ諸族がキエフ大公国を承認した後も、ヴャチチ族はキエフの支配下にはありませんでした。ヴャチチ族がキエフ大公国に組み込まれたのは、964年から969年の間にスヴャトスラフ1世がハザールを制圧した後でした。

キエフ大公国との抗争

しかし、キエフ大公国によるヴャチチ族の従属は完全なものではなく、ヴャチチ族はしばしば反乱を起こしました。例えば、981年にはウラジーミル1世がヴャチチ族を攻め、税を課しましたが、982年には再び制圧軍を送らざるを得ませんでした。11世紀末まで、ヴャチチ族は一定の政治的独立性を保持しており、大公によるヴャチチ族への遠征が繰り返されました。

ヴャチチ族の終焉

年代記において、ヴャチチ族という名称が最後に言及されるのは1197年の記述です。その後、ヴャチチ族の地はチェルニゴフ公国、ロストフ・スーズダリ公国、リャザン公国の領域に編入され、その歴史に幕を閉じました。

ヴャチチ族は、東スラヴの歴史において、独自の文化と政治的地位を築いた部族でした。彼らの歴史は、東スラヴ世界の多様性と複雑さを物語る貴重な史料と言えるでしょう。

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