スヴャトスラフ1世

スヴャトスラフ1世：戦いを愛したキエフ・ルーシの大公

スヴャトスラフ1世（942年頃 - 972年）は、キエフ大公イーゴリ1世とオリガの息子として生まれ、キエフ大公国の大公として945年から972年まで在位しました。彼は、その生涯を戦いに捧げ、キエフ・ルーシの最大版図を築き上げました。

戦いを欲する大公

父イーゴリ1世がドレヴリャネ族に殺害された後、幼少のスヴャトスラフに代わり、母オリガが摂政として国を治めました。オリガはドレヴリャネ族に凄惨な復讐を行い、その国を征服。スヴャトスラフもこの戦いに参加し、開戦時には先頭で槍を投じたと伝えられています。

964年に成人を迎えると、スヴャトスラフは自ら国政を担い、積極的な拡大政策を開始しました。年代記には、彼が多くの国々に使者を送り、「汝らと戦いたいと思う」と告げ、従士団（ドルジーナ）を率いて次々と侵攻したと記されています。

スヴャトスラフは、キエフにとどまるよりも戦場にいることを好みました。年代記には、「公は戦士らのあいだで豹のように軽やかに歩み、しばしば戦争を行った。細かく刻んだ肉を柔らかく煮込むことなく、炭火の上であぶって食べた」と、彼の質素で武骨な生活ぶりが描写されています。東ローマ帝国の記録によれば、彼は中背で禿げ上がっていましたが、高貴な身分を示す一房の巻き毛を残し、肩幅が広く頑健で、荒々しく大胆な性格であったとされています。

ハザール王国の征服

親政を開始した翌年の965年、スヴャトスラフは東方へ兵を進め、ハザール王国への遠征を決意しました。当時、ハザール王国はヴォルガ下流域を中心に広大な版図を誇っていましたが、すでに衰退期に入っていました。

スヴャトスラフはテュルク系のグズ族と結び、ハザールの軍勢を破り、首都イティルを破壊。サルケルやサマンダルなど主要都市を次々と占領し、ハザールの影響下にあった諸国・諸勢力をも制圧しました。この戦役によってハザール王国は事実上崩壊し、ルーシは広大な草原地帯を手に入れました。しかし、ルーシにはその地を維持する力がなく、旧ハザール領には新たな遊牧民ペチェネグ族が進出することになります。

第一次・第二次ブルガリア戦役

ハザール王国を征服後、スヴャトスラフは西方に目を向け、ブルガリア帝国への侵攻を開始しました。東ローマ帝国との関係を利用し、ブルガリアを挟撃する戦略を取りました。

967年、スヴャトスラフ率いるルーシ軍はブルガリア帝国に侵攻し、ドナウ北岸の多くの城塞を占領。ペレヤスラヴェツを新たな拠点とすることを計画しました。しかし、ペチェネグ族がキエフを包囲したため、スヴャトスラフは急ぎ帰国し、ペチェネグ族を撃退しました。

その後、スヴャトスラフはペレヤスラヴェツへの移住を宣言し、長男ヤロポルクをキエフに、次男オレーグをドレヴリャネ族の地に、三男ウラジーミルをノヴゴロドにそれぞれ分封しました。そして、自らは従士団を率いてペレヤスラヴェツに移住し、バルカン半島への本格的な進出を開始しました。

しかし、東ローマ帝国はスヴャトスラフの動きを警戒し、ブルガリアとの和平に転じました。971年初頭、スヴャトスラフ率いるルーシ軍は再びブルガリアへ侵攻しましたが、東ローマ皇帝ヨハネス1世ツィミスケスの反撃を受け、シリストラまで撤退。講和を結び、バルカン半島から兵を退くことを余儀なくされました。

最期

キエフへ帰還する途中、スヴャトスラフはドニエプル川の早瀬でペチェネグ族の待ち伏せに遭い、殺害されました。ペチェネグ族の首長クリャは、スヴャトスラフの頭蓋骨に金箔を貼り、酒盃としたと伝えられています。

自ら戦陣に立って兵士同様に戦ったスヴャトスラフの死とともに、ルーシの「英雄時代」は終わりを告げました。彼の死後、キエフでは長男のヤロポルクが大公位を継ぎました。

スヴャトスラフ1世は、その勇猛さと征服欲によってキエフ・ルーシの歴史に名を刻んだ、伝説的な大公でした。

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