ヴルーム・ヴルーム

『ヴルーム・ヴルーム』：ダブルトリオ期の熱狂を捉えたライブ・ドキュメント

アルバム概要

『ヴルーム・ヴルーム』は、プログレッシブ・ロック界の巨匠キング・クリムゾンが2001年にリリースした公式ライブ音源集である。本作には、バンドが当時、極めて特異な編成である『ダブルトリオ』として活動していた1995年と1996年に行われたライブの模様が収められている。この時期のキング・クリムゾンの精力的なライブ活動を記録した貴重なドキュメントと言える。

特異な編成「ダブルトリオ」

本作に収録されている演奏は、ロバート・フリップ（ギター）、エイドリアン・ブリュー（ギター、ヴォーカル）、トニー・レヴィン（ベースギター、エレクトリック・ダブルベース、スティック）、トレイ・ガン（ウォー・ギター）、ビル・ブルーフォード（ドラム、パーカッション）、パット・マステロット（ドラム、パーカッション）という6人編成、通称『ダブルトリオ』によるものである。ツインギター、ツインベース（スティック含む）、ツインドラムというこの編成は、クリムゾンの長い歴史の中でも他に類を見ないものであり、従来のロックバンドの枠を超えた複雑で立体的なサウンドを生み出していた。本作では、そのユニークなアンサンブルがライブ空間でどのように展開されていたかを追体験できる。

収録内容：二つのライブ公演

アルバムは2枚組で構成されており、それぞれ異なる時期、異なる場所でのライブ音源が収録されている。

Disc1：メキシコ 1996

Disc1には、1996年8月2日から4日にかけてメキシコシティのメトロポリタン・シアターで行われたライブの音源が収められている。この時期のセットリストから、ダブルトリオ期の幕開けを告げたスタジオアルバム『ヴルーム』やEP『スラック』からの楽曲が多く選ばれている。『ヴルーム・ヴルーム』、『コーダ：マリーン 475』、『ダイナソー』、『スラック』といった当時の主要レパートリーに加え、『21世紀のスキッツォイド・マン』、『太陽と戦慄 パートⅡ』、『レッド』といった過去の名曲も、この6人編成ならではの重厚かつ精密なアレンジで演奏されている。また、バンドの創造性と相互作用を示す『インプロヴィゼイション：バイカー・ベイブス・オブ・ザ・リオ・グランデ』も収録されており、ライブにおける即興性の高さも伺える。

Disc2：ニューヨーク 1995

Disc2には、1995年11月20日から25日にかけてニューヨークのロングエーカー・シアターで行われたライブの音源が収められている。こちらはメキシコ公演よりもやや早い時期の演奏で、セットリストにはさらに幅広い時代の楽曲が含まれている。『セラ・ハン・ジンジート』、『フレイム・バイ・フレイム』、『インディシプリン』、『エレファント・トーク』、『スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー』といった、1980年代の編成（フリップ、ブリュー、レヴィン、ブルーフォード）による楽曲も、ダブルトリオのフィルターを通して再構築されているのが特徴である。また、ここでは珍しく、ビートルズの楽曲『フリー・アズ・ア・バード』のカバーが披露されており、サプライズ感のある選曲も魅力の一つとなっている。

資料的価値とデザイン

本作の付属ブックレットには、ダブルトリオが活動した1994年10月から1996年8月までの全ライブ公演の日程が詳細に掲載されている。これは、この短期間ながら精力的に世界中をツアーしたバンドの軌跡を辿る上で、非常に価値の高い資料となっている。アルバムのアートワークは、キング・クリムゾンの作品を数多く手がけてきたアーティスト、P.J.クルックが担当しており、視覚的な面からもアルバムの世界観を表現している。

総評

『ヴルーム・ヴルーム』は、キング・クリムゾンの歴史の中でも特にユニークな存在であったダブルトリオ編成のライブパフォーマンスを、高音質で体験できる重要なアルバムである。当時のバンドが持っていた圧倒的な演奏力、複雑なアレンジをライブで再現する能力、そしてメンバー間のスリリングなインタープレイが余すところなく記録されている。ダブルトリオ期のサウンドやライブ活動に興味を持つファンにとって、必携の一枚と言えるだろう。

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