一つ目入道

一つ目入道：各地の伝承に現れる異形の妖怪

一つ目入道は、日本の妖怪の一つとして古くから人々の知るところです。その姿は、片方の目が欠けた、あるいはそもそも一つ目の巨大な入道の姿と伝えられています。背丈が伸び縮みするという話もあり、その正体や行動は地域によって様々です。

京都の伝承では、一つ目入道の正体はキツネであるとされています。また、江戸時代の怪談集『稲生物怪録』にも登場し、主人公を襲いかかろうとするタヌキの姿で描かれています。絵画資料からは、その恐ろしい様子が伺えます。

和歌山県日高郡の伝承では、若者が山道を歩いていると、大勢の人々が行列を作っているのに遭遇します。一見すると、殿様の行列や嫁入り行列のようにも見えますが、様子がおかしいと感じた若者は木に登って様子を見守りました。すると行列は止まり、巨大な駕籠から身長約3メートルにも及ぶ一つ目の大男が現れ、若者を襲いかかってきました。若者は必死に抵抗し、刀で大男の頭を斬りつけると、行列は跡形もなく消え去ったと伝えられています。

一つ目入道や、よく似た妖怪である一つ目小僧が、入道の姿をしているのは、比叡山に伝わる妖怪「一眼一足法師」が由来ではないかという説があります。一眼一足法師は、片目一本足の僧の姿をした妖怪、あるいは幽霊で、比叡山で修行を怠る僧を睨みつけて戒め、ひどい場合は山から追い出すと伝えられています。

この一眼一足法師は、天台宗の第18代座主である良源、またはその高弟である第19代座主の尋禅の生まれ変わりとされています。厳しい戒律で知られた良源が、死後も僧たちの世俗化を嘆き、妖怪となって戒めを与えているという信仰があったようです。現在でも、比叡山延暦寺の総持坊には、一眼一足法師の絵が残されていると伝えられています。

これらの伝承からわかるように、一つ目入道は単なる怪異ではなく、人々の信仰や社会風習と深く関わった存在だったと考えられます。その正体や行動は様々ですが、いずれも人々の心に強い印象を与えたことは間違いありません。一つ目入道の姿は、人々の戒めや、自然への畏怖の念を象徴しているのかもしれません。また、各地の伝承を比較検討することで、妖怪信仰の地域差や変遷を探ることもできます。妖怪研究において、一つ目入道は重要な研究対象と言えるでしょう。様々な文献資料や伝承を詳細に調査することで、一つ目入道像をより深く理解し、日本の妖怪文化の一端を垣間見ることができるでしょう。

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