尋禅

尋禅（じんぜん）

尋禅は、平安時代中期に活躍した天台宗の僧侶です。天慶6年（943年）に生まれ、永祚2年（990年）にその生涯を閉じました。父は藤原師輔、母は醍醐天皇の皇女である雅子内親王という、当時としては非常に高貴な血筋の持ち主でした。

生涯

天徳2年（958年）、尋禅は延暦寺に入り、僧侶としての道を歩み始めます。彼の師となったのは、父・師輔と親交が深く、比叡山中興の祖とも称される良源でした。良源は、尋禅を後継者として育てることを当初から考えていたとされています。

天禄3年（972年）、良源が病に倒れた際、遺言状の中で、師輔との約束通り、尋禅を後継者に指名しました。このことからも、良源が尋禅に寄せる期待の大きさが窺えます。

天禄4年（973年）には、良源の推薦により、尋禅は天台宗で初めて一身阿闍梨に任じられました。これは、通常では考えられない特例であり、定員外の任命でした。さらに翌天延2年（974年）には、律師の位を飛び越えて、権少僧都に任命されるという異例の昇進を遂げました。これらの異例の待遇は、権門の子息が宗教界で優遇される先駆けとなり、以降の比叡山の世俗化を招く一因となりました。

天元4年（981年）には権僧正に昇進し、寛和元年（985年）には、ついに良源の後を継いで天台座主に就任しました。これは、尋禅が天台宗の頂点に立ったことを意味します。しかし、その地位に安住することなく、永祚元年（989年）には隠退し、飯室に篭って静かな生活を送りました。没後の寛弘4年（1007年）には、その功績を称えられ、慈忍の諡号が贈られています。


尋禅の生涯は、その出自の高さと、師である良源の厚い信頼によって、異例の昇進を遂げたものでした。しかし、その特例ともいえる昇進は、後の比叡山の世俗化を招くきっかけの一つとなったという側面も持ち合わせています。彼は、天台宗の歴史において、重要な役割を果たした人物の一人と言えるでしょう。

参考文献

* 平林盛得『人物叢書　良源』吉川弘文館、1976年12月

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