一人息子 (映画)
一人息子
概要
『一人息子』（ひとりむすこ）は、1936年に公開された日本の映画で、小津安二郎監督の作品です。本作は、長らくサイレント映画を制作してきた小津にとって初めてのトーキー作品であり、松竹蒲田撮影所が開発した「茂原式トーキー」を使用しました。この技術は、カメラマンの茂原英雄によって開発されたもので、録音技師も彼が初めて手掛けています。
ストーリーは小津が「ゼームス・槇」の名義で執筆し、その後、池田忠雄と荒田正男によって脚色されました。撮影は杉本正次郎が担当し、彼は過去に小津の作品『出来ごころ』で監督を務めていました。この時期、松竹蒲田撮影所では従来あった「土橋式トーキー」ではなく、新たな技術に挑戦していました。
本作の撮影は蒲田撮影所で行われましたが、実際には小津組以外には誰もおらず、アットホームな雰囲気で撮影が進行されたといいます。特に、主演の飯田蝶子や他の女優たちが夜食の準備をするなど、親密な制作環境が印象的でした。この映画は、松竹キネマにとって最後の蒲田撮影所の作品でもあります。
上映用フィルムは東京国立近代美術館フィルムセンターに保管され、35mmフィルムと16mmフィルムの2バージョンが存在します。2003年には『小津安二郎 DVD-BOX 第三集』に収録され、現代の映画ファンにも愛されています。
あらすじ
物語は1923年の信州・長野県に始まります。おつねは製糸工場で働く母親で、息子の良助が中学校への進学を希望していることを知ります。家計に余裕がない中、良助の情熱に心を動かされ、彼に中学から大学まで進学することを許可します。
時が経ち1935年、おつねは良助が就職したとの連絡を受け、彼の上京を期待します。翌年、実際に上京したおつねは、良助の生活に失望します。良助は夜間学校の教師として働いていましたが、妻子との生活は厳しいものでした。また、彼のかつての担任・大久保先生も上京し、トンカツ屋を経営していましたが、期待とは裏腹の現実が二人を待っていました。
良助は東京での生活に苦しみ、おつねはその様子を見て涙を流します。しかし、次の日に起きた出来事が彼女の心を変えました。貧しい隣家の子供が大怪我をし、良助がその子の入院費を援助する姿を見たおつねは、誇りを持ち、信州に帰郷します。そして彼女は、同僚たちに良助のことを誇らしげに話すのでした。
スタッフ
キャスト
本作は家族の絆や母親の愛情を描きつつ、当時の社会情勢や人々の苦悩を巧みに映し出した傑作です。小津安二郎監督の独特な視点と、心温まるエピソードが詰まった作品として、今なお多くの人に愛されています。
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